第43話 猫の正体
フィーナは走っていた。
軍服のまま。
街の石畳を。
王女がこんなふうに駆け回ることは普通ない。
でも、今は関係なかった。
「……セナ」
あの戦場。
あの機体。
あの残響。
頭から離れない。
⸻
兵舎。
端末。
データ検索。
名称:セナ
該当なし。
もう一度入力。
セナ 共和国兵
該当なし。
フィーナは眉を寄せる。
「……おかしい」
もう一つ。
思い出す。
あの声。
あの動き。
あの異質さ。
端末に入力する。
セナ セルド
表示。
DC3rd
セナ・セルド
帝国所属。
フィーナの呼吸が止まる。
「……帝国」
画面を閉じる。
考える時間はない。
⸻
兵舎。
いない。
部屋。
いない。
リオンの家。
いない。
街。
人混み。
通り。
カフェ。
店の前で足が止まる。
ガラス越し。
奥の席。
見覚えのある黒髪。
パフェ。
スプーン。
猫みたいな少女。
フィーナの声が漏れる。
「……セナ」
⸻
セナが顔を上げる。
半目。
そして少し笑う。
「戦場ぶりだね、白百合」
フィーナはテーブルの前まで歩く。
胸の奥がざわつく。
聞かなければいけない。
「あなたは」
言葉を探す。
「何者なの……?」
セナはパフェを一口食べる。
「猫だって」
フィーナが思わず声を上げる。
「そうじゃなくて!」
店内が静まる。
周囲の客が振り向く。
フィーナはハッとする。
「……ごめんなさい」
深く息を吐く。
そして。
静かに椅子を引く。
相席。
向かい合う。
カフェの中は、さっきより静かだった。
⸻
フィーナはもう一度言う。
「あなたは」
セナはスプーンを回す。
そして。
あっさり言う。
「セナ・セルド」
フィーナの目がわずかに揺れる。
「DC3rdのセナ・セルド」
一瞬。
言葉が出ない。
「……え」
フィーナは小さく呟く。
頭の中に浮かぶ名前。
レイ。
そして。
理解が繋がる。
「レイと……同じ?」
セナは首を傾げる。
「DC1stの?」
少し考える。
「違うよ」
「ロットが違うもん」
フィーナは黙る。
でも。
胸の奥で、何かが腑に落ちる。
あの感覚。
あの違和感。
戦場で感じたもの。
セナは。
レイと同じだ。
純粋で。
真っ直ぐで。
どこか人間離れしている。
そして。
自分が人間じゃないと思っている。
だから。
気になった。
だから。
放っておけなかった。
⸻
フィーナは静かに聞く。
「……何をするつもりなの」
セナはパフェをもう一口食べる。
少し考える。
それから。
いつもの調子で言う。
「退屈が嫌なだけ」
フィーナは言葉を失う。
その答えは。
軽くて。
でも。
嘘じゃなかった。
セナはスプーンを置く。
「それよりさ」
フィーナを見る。
少し笑う。
「パフェ食べる?」
「今日もおごり?」
フィーナは小さく息を吐く。
そして。
ほんの少しだけ笑った。




