第42話 フィルタのない声
REVR-IV。
接続。
共有率、上昇。
40%。
残響が広がる。
澄んだ感覚。
整えられた世界。
アルテミスの残響はいつも穏やかだ。
柔らかく、包むように広がる。
「第1部隊、出撃」
帝国軍の侵攻。
いつもの戦場。
いつもの空。
フィーナは静かに息を吐く。
「行くよ」
アルテミスが滑走する。
⸻
戦場。
共和国軍は押されていた。
帝国GRASP。
数が多い。
ラインが崩れかけている。
「第3部隊、後退!」
「持ちこたえろ!」
通信が荒れる。
フィーナは加速する。
「援軍に入る」
アルテミスが前線へ向かう。
いつもの形。
白百合が戦場に入れば、流れは変わる。
そのはずだった。
⸻
警報。
新規反応。
識別不能。
「……?」
レーダーに一機。
細い機体。
赤紫の外装。
橙の発光ライン。
アルテミスの進路に、ゆっくり現れる。
フィーナの心臓が一瞬止まる。
「所属不明機?」
アルテミスが速度を落とす。
その機体は、静かに滑走してくる。
まるで。
道を塞ぐように。
⸻
残響。
感じる。
でも。
おかしい。
整っていない。
荒い。
むき出し。
フィルタがない。
「……なに、この残響」
アルテミスの残響が揺れる。
こんな感覚、初めてだった。
⸻
通信が開く。
少女の声。
「久しぶり」
フィーナの呼吸が止まる。
この声。
カフェ。
パフェ。
あの少女。
「……セナ?」
赤紫の機体が、少し傾く。
「正解」
軽い声。
いつも通り。
フィーナは言葉を失う。
「どうして……」
「そんな機体に」
セナが笑う。
「いいでしょ」
「自由で」
⸻
その瞬間。
バスティトが動く。
急加速。
予測不能の軌道。
アルテミスのブレードテイルが反応する。
でも。
遅れる。
「速い……!」
バスティトはアルテミスの周囲を滑る。
左右。
背後。
上。
動きが読めない。
アルテミスの残響共有が追いつかない。
「……っ」
フィーナは気づく。
この機体。
戦う気がない。
ただ。
止めている。
アルテミスを。
援軍に行かせない。
⸻
その間に。
戦場が動く。
共和国軍が押し返す。
帝国GRASPが崩れる。
ラインが逆転する。
「……え?」
通信が入る。
「帝国軍、後退!」
「第3部隊、押し返しました!」
フィーナは息を止める。
アルテミス無しで。
共和国軍が勝った。
そんな戦闘。
ほとんどない。
⸻
セナが機体を止める。
アルテミスの前。
距離、数十メートル。
フィーナは呟く。
「どうして……」
セナの声。
少し楽しそう。
「ね?」
一拍。
そして。
軽く言う。
「戦争」
「終わるかにゃあ?」
フィーナの心臓が大きく鳴る。
あの言葉。
カフェで聞いた言葉。
同じ。
⸻
バスティトが後退する。
赤紫の機体が距離を取る。
フィーナは追えない。
残響がまだ揺れている。
そして。
理解してしまう。
あの機体は。
均衡の外。
⸻
セナが最後に言う。
「じゃーね、白百合」
バスティトが急加速する。
赤紫の光が空へ消える。
⸻
戦場は静かになった。
共和国軍が勝った。
でも。
フィーナは動けない。
コックピットの中で、ただ呟く。
「……セナ」
胸の奥で、何かが揺れる。
もし。
あの子が。
均衡を壊す存在だとしたら。
この戦争は。
本当に。
終わるのかもしれない。




