第41話 均衡線
共和国軍第3部隊。
出撃。
REV-II。
接続。
15%。
コックピットが静かに震える。
セナは軽く肩を回した。
「よし」
「今日はちょっと遊んでみよっと」
通信。
「第3部隊、ライン維持」
「帝国軍接近」
いつもの声。
いつもの命令。
いつもの戦争。
⸻
戦闘開始。
帝国軍。
前衛。
中衛。
支援機。
配置は変わらない。
「ほんと好きだね、この形」
セナはメイルを滑走させる。
振動刃。
一機。
連射銃。
二機。
ラインが揺れる。
でも。
崩れない。
共和国側が、少しずつ押される。
「……へえ」
セナは機体を止める。
戦況を見る。
帝国の圧が強い。
共和国ラインが後退する。
味方の通信が荒れる。
「押されてる!」
「ライン維持!」
「後退するな!」
セナは半目になる。
「わざとじゃん」
分かる。
この崩れ方。
押されすぎない。
でも押す。
戦場の均衡を調整する形。
「なるほどね」
その時。
レーダーに反応。
一機。
黒。
通常GRASPとは違う。
シルエットが細い。
速い。
セナの目が少しだけ開く。
「お」
「来た来た」
帝国機。
新型GRASP。
ゆっくりと戦場へ滑り込む。
⸻
通信が開く。
帝国回線。
「……久しぶりですね」
落ち着いた声。
エル。
セナは小さく笑う。
「お隣さん」
黒い機体が止まる。
戦場の中央。
セナと向かい合う。
味方も敵も距離を取る。
奇妙な空間。
⸻
セナが言う。
「撃たないの?」
エルは答えない。
ただ機体を静かに構える。
セナは続ける。
「せっかくの新型でしょ」
「試してみたら?」
少し前に滑る。
振動刃を肩に乗せる。
「ほら」
「撃ちなよ」
「お隣さん」
沈黙。
数秒。
そして。
エルが言う。
「……っ」
声が少しだけ詰まる。
「均衡が」
短い呼吸。
「崩れますので」
セナの口元がゆっくり歪む。
「あー」
納得したように頷く。
「やっぱり」
空を見上げる。
戦場。
帝国。
共和国。
崩れない線。
「お隣さんは分かってるんだね」
エルは動かない。
撃てない。
撃てば崩れる。
それを知っている。
セナは少しだけ近づく。
機体が数メートル。
「ねえ」
小さく言う。
「壊したくならない?」
エルは答えない。
セナは肩をすくめる。
「つまんないにゃあ」
そして。
振動刃を戻す。
機体を反転させる。
「今日はやめとこっと」
通信がざわつく。
「307!どこ行く!」
セナは手をひらひら振る。
「撤退しまーす」
メイルが加速する。
戦場から離脱。
帝国軍も追わない。
共和国軍も追わない。
均衡線。
また元に戻る。
⸻
セナは戦場の外を滑走する。
空は灰色。
静かな戦争。
「ふーん」
小さく笑う。
「ほんとに壊れないんだ」
少し考える。
そして。
ぽつりと呟く。
「じゃあ」
「どこからなら壊れるのかな」
その目は、少しだけ楽しそうだった。




