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第4話 英雄の背中

第6部隊宿舎。


ユウリ・ラシアルは、整備班から戻ってきたばかりだった。


模擬戦は散々だった。


汗も乾かないまま、廊下を歩く。


途中で、見た。


壁にもたれかかっている黒い影。


ショートボブ。

片目が隠れている。

黒い軍服を羽織るだけの軽装。


セナ・セルド。


帝国第4部隊。

DC3rd。


そして——


クインヘイデスの接続者。


ユウリは足を止める。


「……セナさん」


声をかける。


セナは顔だけ向ける。


「んー?」


気の抜けた返事。


さっきまで戦っていた人間とは思えない。


ユウリは胸が高鳴る。


あの戦場。


共和国のREVを、一機で押し返した。


速度。

判断。

迷いのなさ。


憧れないわけがない。


「さっきの迎撃、すごかったです!」


セナは少し瞬きをする。


「そ?」


「はい!あの踏み込み、全然見えませんでした!」


「見えなくていいんだよー」


欠伸。


ユウリは一瞬戸惑う。


どうしてそんなに、平坦なのだろう。


「セナさんって……怖くないんですか?」


「なにが?」


「戦争、とか……」


セナは少しだけ考える。


「別に」


即答。


「勝てばいいし、負けたら死ぬし」


「それだけじゃない?」


ユウリは言葉を失う。


それは、そうだ。


でも。


もっと、何か。


守るものとか。

怒りとか。

誇りとか。


あると思っていた。


「……なんでそんなに強いんですか?」


セナは、ゆっくり視線を上げる。


暗い桃色の瞳。


少しだけ光がない。


「なーんにも無いからかにゃあ」


軽い。


本気か冗談か分からない。


ユウリは苦笑する。


「セナさんって、変ですよね」


「よく言われるー」


セナは壁から離れる。


「ユウリだっけ?」


「はい!」


「強くなりたい?」


即答だった。


「なりたいです!」


セナは一歩近づく。


距離が縮まる。


柑橘の匂いがする。


「じゃあさ」


「死ぬ覚悟はできてる?」


ユウリの喉が鳴る。


「……はい」


嘘ではない。


本気だ。


セナはじっと見る。


数秒。


それから、ふっと笑う。


「まだ、無理だね」


「えっ?」


「死ぬ覚悟してる人は、そんな顔しないよ」


ユウリは戸惑う。


「私、どんな顔ですか?」


「生きたい顔」


軽く頭をぽん、と叩く。


「それでいーんじゃない?」


セナは歩き出す。


背中が遠ざかる。


軽い足取り。


本当に、何も背負っていないみたいに。


ユウリは見送る。


胸がざわつく。


強い。


誰よりも強い。


でも。


あの人は、どこを見て戦っているんだろう。


何のために。


「……かっこいいのに」


小さく呟く。


そして気づく。


セナの背中は、


どこにも向かっていない。


ただ、進んでいるだけだ。


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