第36話 量産の景色
共和国軍第3部隊。
初任務。
配備されたのは量産型REV-II。
白と灰を基調にした、共和国ではよく見る機体だった。
振動刃。
連射銃。
余計な個性のない、標準機。
「これが量産型かー」
セナは格納庫で機体を見上げる。
派手さはない。
アルテミスみたいな圧もない。
バスティトみたいな歪さもない。
ただ、兵器。
「地味」
整備兵が少しむっとする。
「いい機体だぞ。扱いやすいし、癖がない」
「ふーん」
コックピットへ乗り込む。
接続開始。
表示された上限は15%。
共和国の通常兵なら5%前後で運用される領域。
それを最初から15まで使える。
視界が開く。
軽い。
さすがにバスティトほどではない。
でも、十分。
「これならいけるね」
通信が入る。
「臨時志願兵307、聞こえるか」
「聞こえるよー」
「前に出すぎるなよ。今回は防衛寄りだ」
「はーい」
返事は軽い。
⸻
戦場は帝国との境界防衛帯。
見慣れた景色。
瓦礫。
鉄骨。
土煙。
違うのは色だけだった。
共和国側の白。
帝国側の黒。
それだけ。
「……ほんと、同じだ」
小さく呟く。
開戦。
第3部隊が横に広がる。
メイルを滑走させる。
通常兵は5%前後。
動きは重い。
反応も遅い。
セナだけが、少し速い。
少しだけ正確。
連射銃。
一機。
振動刃。
二機目。
やりすぎない。
目立ちすぎない。
でも確実に、落とす。
「307、前に出すぎだ!」
「そー?」
前に出すぎている自覚はない。
いや、ある。
でも15%で抑えている。
セナにとっては、散歩みたいなものだった。
「これで必死なんだ」
帝国でも共和国でも。
兵は同じように死ぬ。
⸻
敵の一隊が崩れる。
押せる。
そう思った瞬間。
通信。
「第3部隊、前進停止」
「現ライン維持」
セナの目が細くなる。
「え?」
目の前の帝国機は明らかに後退している。
押し込める。
崩せる。
行ける。
なのに。
「第3部隊、深入りするな。繰り返す、現ライン維持」
横の部隊員が安堵する。
「助かった……」
別の兵が言う。
「ここで押すと第1に負担が行く」
「補給も足りねえしな」
セナは黙る。
もう一度、帝国側を見る。
敵もすぐに引きすぎない。
こちらも追わない。
撃ち合いは続く。
でも決定打は出ない。
まるで。
「……調整してるみたい」
小さく言う。
誰も聞いていない。
⸻
戦闘終了。
大きな戦果なし。
大きな損失なし。
境界線は、ほとんど動かない。
帰投するメイルの中で、セナはぼんやりと戦果ログを見る。
撃破数。
損耗率。
維持率。
数字は綺麗だった。
綺麗すぎた。
「気持ちわる」
でも、それはまだ確信じゃない。
ただの違和感。
ただの予感。
ただ。
帝国で見た光景と、まったく同じ匂いがした。
⸻
格納庫。
コックピットを降りる。
整備兵が驚く。
「初任務で15%維持かよ……」
「臨時なのにやるな」
「番号307、何者だよ」
セナは肩を回す。
「猫だよ」
「は?」
「なんでもにゃあ」
歩き出す。
量産機の列。
同じ顔。
同じ武装。
同じ戦果。
その向こうに、アルテミスはいない。
白百合もいない。
でも。
この戦争の形は、帝国の時と同じだった。
「ふーん……」
セナは小さく笑う。
「そういう感じか」
まだ断定しない。
まだ壊さない。
でも確実に、観察は進んでいた。




