第31話 終わらない理由
朝。
目が覚める。
隣には誰もいない。
テーブルの上に朝ごはんと、少しのお金。
書き置きはない。
セナは小さく笑う。
「変なことすんなよ、って顔してたもんね」
スープを飲む。
「……微妙」
でも全部食べる。
着替える。
黒いチューブトップ。
ホットパンツ。
その上にパーカー。
鏡を一瞥。
「よし」
街へ出る。
⸻
カフェ。
パフェが運ばれてくる。
「いっただっきまーす」
甘い。
冷たい。
幸せ。
ふと視線を上げると、窓越しに目が合う。
白いワンピース。
長い白髪。
呆れたような笑顔。
フィーナ。
数分後、向かいの席。
紅茶とケーキ。
「昨日ぶり。またパフェ食べてる」
「だって美味しいんだもん」
「お金、大丈夫?」
「今日はある」
フィーナはくすりと笑う。
「計画性なさそう」
「あるよ?パフェ優先っていう計画」
「それは計画って言わないの」
⸻
食後。
街を歩く。
アクセサリー店の前でセナが立ち止まる。
「ねえ、これ似合うと思う?」
ピンク色の小さなリング。
フィーナは少し覗き込む。
「セナは黒が多いから、差し色でいいかも」
「意外とちゃんと見るね」
「姫様だからね」
「なにそれ」
笑う。
フィーナが白いワンピースの裾を少し持ち上げる。
「私こっち似合うかな?」
淡い青のヘアピン。
「フィーナは何でも似合うでしょ」
「雑だなあ」
「白いし」
「それ理由?」
「うん」
二人で笑う。
⸻
映画館。
ホラー。
暗闇。
不意に大きな音。
「きゃっ!」
フィーナが思い切りセナの腕を掴む。
セナは無表情。
「今の全然前振りあったじゃん」
「分かってても怖いの!」
「接続値上限とか低そう」
「何その例え!」
上映後。
「セナって怖いものないの?」
「あるよ」
「何?」
「退屈」
フィーナは少しだけ黙る。
冗談なのか、本気なのか、分からない。
⸻
屋台でクレープ。
ベンチに並んで座る。
「フィーナってさ」
「うん?」
「普通のことするの、久しぶりなんじゃない?」
フィーナは少し考える。
「……うん」
「こういう時間、あんまりない」
「姫様だもんね」
「フィーナでいいってば」
「じゃあフィーナはさ」
セナが横目で見る。
「今、楽しい?」
フィーナは即答しない。
それから、静かに笑う。
「……うん」
それは本物だった。
⸻
夕方。
空が橙に染まる。
二人並んで歩く。
「ねぇ」
セナが少し前に出る。
振り返らない。
「戦争ってどう思う」
フィーナの歩みがわずかに遅れる。
「悲しいよ」
「残酷で、愚かで」
「終わらせたい」
「終わるのかな?戦争」
フィーナは答えに詰まる。
「終わらせなきゃいけない」
その声は少し揺れている。
「終わると困る人でもいるのかにゃあ」
フィーナの指先がわずかに震える。
「……」
セナはゆっくり振り向く。
柔らかい笑顔。
「いないよね?」
「みんな終わらせたい」
「そーだよね?」
フィーナは目を伏せる。
「……うん」
嘘じゃない。
でも全部でもない。
セナは感じる。
強い。
優しい。
でも縋っている。
何かに。
「フィーナは歪んでる」
夕焼けの中で言う。
「それ、ちょっと気持ち悪いよ」
責めていない。
ただの感想。
フィーナは息を吐く。
「……うん。そうだと思う」
セナは微笑む。
「今日はありがと。楽しかったにゃあ」
歩き出す。
フィーナは立ち尽くす。
今日の笑顔も本物だった。
だからこそ。
刺さる。
白百合は、自分が歪んでいることを知っている。
そして、直せない。
夕焼けが、二人の影を長く伸ばしていた。




