第28話 朝とパフェと白い人
目を開ける。
見慣れない天井。
白でもなく、黒でもなく、ただの少し黄ばんだ天井板。
しばらくぼんやりと眺めてから、ゆっくり瞬きをする。
「あー……」
身体が重い。
戦闘の疲れというより、空腹と緊張が一気に抜けた後のだるさ。
ここは――共和国。
森で倒れて、あの男に拾われて。
焦げた卵の味が、まだ舌に残っている。
上体を起こすと、部屋は静かだった。
生活の匂いがする。
狭いが、整えられている。
テーブルの上に、紙が一枚。
〈おはよう。よく眠れたか?
昨日と同じもんだけど朝ごはん置いとく。
スープは冷めてたら温めてくれ。
俺は仕事に行ってくる、変なことすんなよ!
リオン〉
「変なことなんてしないって」
小さく笑う。
ラップのかかった皿。
パン。
薄いスープ。
少し焦げたスクランブルエッグ。
昨日と同じ。
でも、なんだか違う。
器を持ち上げる。
「……まだ温かい」
起きてからそんなに時間は経っていないのだろう。
一口。
薄い。
塩も足りない。
「やっぱり味は微妙だにゃあ」
でも、全部食べる。
温かい。
それだけで十分だった。
⸻
服はまだ乾いていない。
仕方なく、ぶかぶかのTシャツのまま外に出る。
朝の共和国。
帝国より、音が多い。
市場の呼び声。
パンの焼ける匂い。
子どもの笑い声。
兵士もいる。
でも、笑っている。
誰もが“生きている”。
それが当たり前みたいに。
「共和国かー……」
空を見上げる。
「帝国と違って、なーんか暖かい」
理由は分からない。
ただ、空気が柔らかい。
鼻歌が勝手に漏れる。
⸻
通りを歩いていると、カフェのショーウィンドウが目に入る。
ガラス越しに、パフェの模型。
帝国のものより派手だ。
色が多い。
高い。
盛りすぎ。
「おー……なんか豪華!」
自然と足が向く。
入店。
席に座る。
注文。
やってきた本物は、模型よりも輝いて見えた。
果物が新鮮だ。
クリームの白が眩しい。
「いっただっきまーす」
一口。
甘い。
濃い。
冷たい。
帝国で食べていたパフェと同じ“甘い”なのに、どこか違う。
「……うま」
止まらない。
スプーンが進む。
気づけば、空。
満足感がゆっくりと広がる。
「ふー……ごちそうさま」
背もたれに体を預ける。
しあわせ。
――財布。
出そうとして、止まる。
「あれ」
帝国通貨しかない。
共和国の金、ない。
当たり前だ。
冷や汗。
机につっ伏す。
「やば……」
どうする。
逃げる?
めんどい。
働く?
もっとめんどい。
思考停止。
そのとき。
「大丈夫ですか?」
柔らかな声。
まるで風が触れるみたいな声。
顔を上げる。
白い髪。
長い。
光を受けて、ほとんど銀に近い。
共和国の軍服。
でも、ただの兵士じゃない。
立ち方が違う。
空気が違う。
同い年くらい。
なのに、落ち着いている。
セナはまだ知らない。
目の前に立っている少女が、
フィーネリア・ルミナリア。
白百合と呼ばれる存在だということを。
セナは一瞬だけその顔を見つめる。
「……もしかして」
口角が上がる。
「奢ってくれる感じ?」




