第26話 お人好し
夜の哨戒任務は、静かだ。
静かすぎる。
俺の名前はリオン・フロル。
共和国軍所属、哨戒・偵察任務担当。
REV適正は低い。
だから前線ではなく、こうして境界付近や廃棄区画を巡回している。
異常なし。
それが俺の仕事だ。
誰にも知られず、誰にも褒められず、
ただ「異常なし」と報告するだけ。
それでも――
これが国の平和の為になっていると、信じている。
妹は第1部隊だ。
フィーネリア様直属。
REV-VIの接続者。
俺とは違う。
だからせめて、俺は俺の持ち場を守る。
⸻
廃棄区画。
夜風が草を揺らす。
誰も来ない場所。
来る理由もない場所。
いつも通りのルート。
いつも通りの静けさ。
「……異常なし」
言いかけた、その時。
ガサリ。
草の擦れる音。
足を止める。
動物か?
それとも――人間?
この区域に?
ライトを構える。
「誰かいるのか!」
照射。
光の中に、影。
小柄な人影。
黒いパーカー。
ホットパンツ。
むき出しの脚は傷だらけ。
妹と同じくらいの年頃か。
こんな場所を歩いていたのか?
少女が顔を上げる。
片目は前髪で隠れている。
もう片方の目が、ぼんやりこちらを見る。
「……いた」
そのまま、倒れる。
「おい!」
駆け寄る。
身体は軽い。
熱もある。
明らかに消耗している。
「……おなか……すいた」
力の抜けた声。
冗談にも聞こえない。
俺は一瞬、迷う。
本部に報告するか?
身元不明者。
境界付近。
危険因子の可能性。
でも。
目の前の少女は、ただ空腹で倒れているだけに見えた。
「……放っておくわけにもいかないか」
小さく息を吐く。
端末を握る。
報告は――後だ。
まずは助ける。
それが先だ。
少女を抱え上げる。
軽い。
驚くほど軽い。
「しっかりしろ。もう少しだ」
返事はない。
ただ、小さく呼吸している。
夜の森を抜ける。
静かな廃棄区画。
いつも通りの哨戒任務。
ただひとつだけ違うのは、
俺の腕の中に、
正体不明の少女がいることだった。




