第25話 境界突破
夜。
帝国境界防衛帯。
既にUN-Σ《バスティト》は起動している。
赤紫の外装。
橙のラインが静かに脈打つ。
セナは操縦席に跨ったまま、軽く肩を回す。
「んー……やっぱ軽い」
表示パネルに目をやる。
接続値表示――なし。
接続安定の文字のみ浮かんでいる。
「あれ?」
一瞬だけ、眉が寄る。
「接続値って出ないんだ」
沈黙。
「……ま、いっか」
指を鳴らす。
加速。
⸻
警報。
〈所属不明機、地下格納庫より発進〉
〈防衛部隊、迎撃せよ〉
滑走路を裂く橙の残光。
バスティトは地面すれすれを滑る。
人型形態のまま。
小型ブレードを抜く。
帝国GRASPが進路を塞ぐ。
「止まれ!」
胸部バルカン。
牽制。
視界が散る。
踏み込み。
超接近。
一閃。
二閃。
操縦系のみを正確に断つ。
爆散はしない。
ただ沈黙。
「んー、いいね」
身体が軽い。
これは戦争じゃない。
脱出。
逃走。
反逆。
全部。
楽しい。
⸻
背後。
エルの機体。
「……セナ・セルド」
静かな声。
「逸脱するなら、落とします」
銃口。
発射。
セナは振り向かない。
横滑り。
ブレード一振り。
エルは即座に回避。
だが脚部を斬られる。
バランスを崩す。
地面に片膝。
「……速い」
セナは止まらない。
「お隣さん、運いいねー」
「今日はここまで」
変形。
脚部折り畳み。
機体が低く沈む。
強行離脱形態。
地を滑る弾丸。
橙の軌跡。
エルは追えない。
「……」
羨望。
ほんの僅か。
だが口には出さない。
⸻
境界防衛帯。
突破。
追撃不能。
セナは速度を緩める。
共和国側の暗い地平線。
「んー!なんか自由って感じ?」
小さく笑う。
見られている気配。
でも気にしない。
「さーてと」
顎を上げる。
「このまま白百合のお話、聞きに行こっかな」
バスティトは闇へ消える。
戦争の外へ。
少しだけ、楽しそうに。




