第24話 脱皮
深夜。
静まり返った帝国区画。
セナの部屋のドアが、静かに開く。
廊下の端。
監視兵が腕を組んで立っていた。
「どこへ行く」
無機質な声。
セナは肩をすくめる。
「えー、ちょっと寂しくなっちゃってさ」
ゆるく笑う。
「一緒に来る?」
監視兵は動じない。
「ふざけるな。部屋へ戻れ」
わずかにため息。
その瞬間。
銃声。
小さな破裂音。
監視兵の足が撃ち抜かれる。
崩れ落ちる。
セナは奪った拳銃を軽く回す。
「よかった、サイレンサー付いてるじゃん」
「貴様……離反か」
立てないまま、睨む。
セナは首を傾げる。
「分かってないなあ」
二発。
胸。
心臓。
静かに崩れ落ちる。
血が広がる。
セナはそれを見下ろす。
「退屈なだけだって」
振り向かず、歩き出す。
⸻
地下格納庫。
重いシャッターの奥。
赤紫の外装。
橙の発光ライン。
組み上がった機体。
その前に立つ。
「UN-Σ《バスティト》」
後ろからの声。
振り向く。
アインス。
「この子の名前?」
「ええ。帝国機ではありませんから、GRASPは不適切かと」
セナは笑う。
「いーね、あたしっぽい」
少し間。
「てゆーか止めないの?」
アインスは眼鏡を押し上げる。
「私はここに居ませんよ」
居なかったことにする、という意味。
沈黙。
「従来のリンクスーツでは帝国信号が出ます。中に新しいものを用意しました。起動キーも」
セナは軽く手を振る。
「何から何までありがたいにゃあ」
一歩、近づく。
「でもさ、戦争終わったら困るんじゃない?」
アインスは少しだけ目を細める。
「……好奇心ですかね」
「私が作った兵器で戦争が終わる。世界が変わる」
「美しいじゃありませんか」
セナは一瞬だけ真顔になる。
「……気持ち悪ー」
本音。
アインスは笑う。
「勘のいい部隊が展開しています。お気をつけて」
「ふーん……ま、いいけど」
セナは機体へ向かう。
「それじゃーね、所長さん」
⸻
コックピット。
中に置かれた新しいユニオンスーツ。
紺色を基調に、桃色の発光ライン。
セナはそれを摘み上げる。
「これが新しいスーツね」
広げてみる。
「……って、なんか布面積少なくなってるよーな」
眉を寄せる。
「ま、いっか」
着替える。
ぴたりと肌に吸い付く。
接続ポートが光る。
起動キーを差し込む。
低い駆動音。
UN-Σ《バスティト》起動。
赤紫の装甲が淡く震え、
橙のラインが脈打つ。
暗い格納庫が、光で染まる。
セナは座席に沈む。
「さーて」
「どこ行こっかにゃあ」
機体が浮き上がる。
帝国の地下。
天井を突き破る音が響く。
脱皮。
戦争からではない。
陣営からでもない。
均衡からでもない。
ただ、
退屈から。




