第20話 変わるため、変えるため
深夜。
帝国GRASP開発棟・最奥区画。
人の気配はない。
非常灯とホログラム投影装置だけが、静かに空間を照らしている。
中央に浮かぶのは――
分解された《キングス》の基礎フレーム。
装甲を剥がされ、骨組みだけになった機体が、青白い光の中で回転している。
アインス・クラウスは、その前に立っていた。
「……ふむ」
指先を軽く払う。
胸部ユニットが分離。
脚部フレームが反転。
脊椎構造がスライドし、再構成を試みる。
変形。
だが途中で赤い警告表示が浮かぶ。
――可動域干渉。
――構造強度不足。
――残響伝導ロス増大。
「やはり、素体のままでは難しいですか」
独り言。
キングスは完成された機体だ。
固定された用途。
固定された戦い方。
固定された構造。
だから強い。
だから扱いやすい。
だが。
「“そのままではつまらない”……でしたね」
セナの声を思い出す。
軽い。
無責任。
だが、どこか本質を突く言葉。
アインスはフレームをさらに分解する。
関節軸を増設。
背部基部を再設計。
回転可能な中枢ブロック。
「変形機構を成立させるには、まず“固定”を壊す必要がある」
完成形を疑う。
正しいとされた構造を崩す。
一度、全てをバラす。
「完成したルールでも壊せる、ですか」
口元が僅かに上がる。
ホログラム内でキングスの骨格が捻じれる。
上下が入れ替わる。
脚部が腕部へ。
背部ユニットが主駆動へ。
まだ粗い。
まだ歪だ。
だが、可能性はある。
「……これは」
アインスは目を細める。
既存のGRASPにもREVにも存在しない可変構造。
形を持たない兵器。
戦況に合わせて“在り方”を変える機体。
固定されない存在。
「なるほど」
静かな笑い。
「LNSとは、よく出来た装置ですね」
均衡。
減衰。
世界の上限。
そこまで口にして、アインスは小さく肩をすくめた。
「嫌いではありませんよ」
「ただ、その先も見てみたい」
指を弾く。
ホログラムが再構築される。
キングスの名残は、もうほとんどない。
新しい輪郭。
未完成の可変機。
まだ名前はない。
まだ用途もない。
だが確かに――
“変えるための構造”だった。
アインスは一人、静かに笑う。
「好奇心ですね、これは」
深夜の研究室。
誰もいない。
だが。
固定されたはずの何かが、確かに揺らぎ始めていた。




