第19話 嫌いなもの
キングスは、もう“機体”ではなかった。
胸部装甲は外され、
背部ユニットは分解され、
骨組みだけが吊られている。
セナはその下に寝転がっていた。
仰向け。
工具を持つわけでもない。
ただ、骨格を見上げている。
「固定されすぎなんだよねー」
小さく呟く。
関節。
推力軸。
全部が「この形で使え」と言っている。
「つまんない」
カツ、という足音。
エルだ。
「解体は順調のようですね」
「そーみたい」
「あなたがやったわけではない」
「やる気ないもん」
エルは吊られたフレームを見上げる。
「壊す理由が知りたい」
セナは寝転んだまま答える。
「あたしのGRASP無いもん」
「クインヘイデスは封印」
「キングスは余り物」
「そのまま乗ればいいでしょう」
「やだ」
即答。
エルは少しだけ目を細める。
「なぜ」
セナは身体を起こす。
フレームの脚部に腰掛ける。
「そのままじゃ、つまんないじゃん」
「完成してるやつに乗るとか」
「既定路線って感じ」
エルは淡々と返す。
「戦場は既定路線の連続です」
「命令」
「陣形」
「撤退」
「だからつまんない」
セナは笑う。
軽く。
「GRASPも」
一瞬だけ視線が泳ぐ。
「……世界もね」
小声。
エルは聞き逃さない。
「世界?」
「んー?」
「なんでもない」
沈黙。
格納庫の空調音だけが響く。
エルは言う。
「あなたは、戦争を面白くしたいのですか」
「面白く?」
セナは少し考える。
「違う」
「面白くないから、いじるだけ」
「壊したいとかじゃない」
「形変えたら、どうなるかなーって」
エルはゆっくりと言う。
「あなたは危険だ」
「ありがと」
「褒めてない」
セナはフレームから飛び降りる。
「お隣さんさ」
「なに?」
「完成してるものって、ほんとに完成してると思う?」
エルは即答しない。
セナは続ける。
「キングスだってさ」
「“これが完成形です”って顔してるけど」
「解体してみたら、スカスカだったし」
指でフレームを弾く。
乾いた音。
「中身、たいしたことない」
「……」
「だったら作り直せるでしょ?」
エルは静かに問う。
「何を」
セナはにやりと笑う。
「さーね」
「とりあえず変形させたい」
「固定されてるの、嫌い」
エルは一歩近づく。
「あなたは“均衡”も、そうやって見るのですか」
セナは一瞬だけ止まる。
視線が交差する。
「均衡って言葉、好きだね」
「意味、分かってる?」
エルは答えない。
セナは肩をすくめる。
「ま、いっか」
「完成したら呼んで」
そう言って歩き出す。
エルは背中を見送る。
「……退屈だけで動いているわけではない」
小さく呟く。
吊られたキングスのフレームが、ゆらりと揺れた。
まだ名前のない、新しい形。
まだ理由のない、歪み。




