第18話 余りもの
監視が増えた。
二人。
交代制。
廊下でも。
食堂でも。
研究棟の前でも。
寝ていても、いる。
セナは欠伸をする。
「暇だにゃあ」
⸻
研究棟。
端末の光。
整備兵の足音。
セナは監視を引き連れたまま入る。
「ねー、所長さん」
アインスはデータから目を離さない。
「なんでしょう」
「新型つくろーよ」
整備兵の手が止まる。
監視の視線が鋭くなる。
「クインヘイデスがあるでしょう」
「封印されたし」
「接続値30%固定だし」
「つまんない」
アインスは小さく笑う。
「退屈ですか」
「うん」
セナは机の上に紙を置く。
落書き。
だが一点だけ、やけに具体的。
中央に大きく書かれた文字。
【変形】
「今までのってさ」
「形、固定じゃん?」
「人型なら人型のまんま」
「だから読みやすい」
アインスが紙を見る。
「戦闘中に構造そのものを変えると?」
「そう」
「速さ優先の形」
「突破用の形」
「逃げる形」
「潰す形」
指でなぞる。
「形が変われば、前提が壊れる」
アインスの目が細くなる。
「完成した設計でも」
「壊せるよね?」
一瞬だけ、研究棟の空気が止まる。
監視の片方が息を呑む。
アインスは静かに答える。
「可能でしょうね」
「理論上は」
セナは笑う。
「そっか」
視線が格納庫の奥へ向く。
布がかけられた機体。
《キングス》。
シンの機体。
「それ、もらうね」
整備兵がわずかに顔を上げる。
アインスは否定しない。
「再設計ですか」
「うん」
「使わないなら、置物でしょ」
感傷はない。
追悼もない。
ただ資源。
「素体としては優秀です」
「余っていますし」
アインスの声は穏やかだ。
セナは立ち上がる。
キングスの装甲に触れる。
冷たい。
「完成したものってさ」
「そのままだと、退屈なんだよね」
監視が一歩動く。
セナは振り向かない。
「壊して、作り直した方が面白い」
アインスは楽しそうだ。
「どこまで変えます?」
「全部」
即答。
「原型、いらない」
「いいですね」
アインスの笑みが深くなる。
「それは、兵器としても」
「研究対象としても」
「非常に魅力的だ」
セナは肩を回す。
伸びをする。
「ねー所長さん」
「はい」
「完成したルールってさ」
「壊したら怒られる?」
沈黙。
監視の視線。
アインスは柔らかく笑う。
「ええ」
「とても」
セナはくすりと笑う。
「こわいにゃあ」
目の奥が、ほんの少しだけ光る。
格納庫の奥。
キングスの装甲に工具が触れる。
静かに。
分解が始まる。
完成された形が、
ゆっくりと壊されていく。
監視は見ている。
カルネアも見ている。
でも。
セナはまだ、
“壊す側”になった自覚はない。
ただ。
退屈だから。




