第14話 回ってるだけ
夜。
第6部隊宿舎。
消灯前の薄暗い室内。
ユウリはベッドに腰掛けたまま、ぼんやりと天井を見ていた。
隣の隊員がブーツを脱ぎながら声をかける。
「どうした、今日は静かだな」
ユウリは少し迷ってから口を開く。
「……この戦争って、終わりますかね」
「なんだ急に」
「いえ、なんとなく」
隊員は肩をすくめる。
「終わるだろ。いつかはな」
「俺らが生きてる間かは知らんけど」
別の隊員が笑う。
「終わんなきゃ困るだろ」
「まあな」
普通の会話。
深刻さはない。
ユウリも小さく笑った。
「ですよね……」
それが普通だ。
でも。
胸の奥の違和感は、消えなかった。
⸻
翌日。
接続テスト室。
ユウリは深呼吸する。
接続開始。
6%。
いつもの上限。
警告表示。
「もう少しだけ……」
7%。
頭が重い。
視界にノイズが走る。
「やめろラシアル!」
整備兵の声。
8%。
吐き気。
心拍上昇。
「大丈夫です……少しだけですから!」
接続強制解除。
床に膝をつく。
「……っ」
整備兵が駆け寄る。
「無理するな。お前は一般兵だ」
一般兵。
分かっている。
でも。
⸻
その日の食堂。
セナは椅子に深く座り、端末で過去の戦闘記録を流していた。
ユウリは向かいに腰を下ろす。
「セナさん」
「んー?」
視線は端末のまま。
「セナさんは……この戦争、終わると思いますか?」
端末の映像が切り替わる。
爆炎。撤退。再占拠。
セナは再生を止める。
「どうだろね」
軽い。
ユウリは続ける。
「でも……終わってほしいですよね」
セナは少しだけ空を見る。
「終わる理由、ある?」
「……え?」
「取ったら取り返す。取り返したらまた取りに来る」
「それを止める人、どこにいるの」
淡々と。
ユウリは言葉を失う。
「でも……誰かが止めないと」
「ユウリが?」
からかうでもなく、ただ確認する。
「……いえ」
「でしょ」
間。
ユウリはセナを見つめる。
「セナさんは……前より、なんか……」
言葉を探す。
セナは首を傾げる。
「前より?」
「その……」
セナは少しだけ考えて。
「変わんないよ」
あっさり。
ユウリは目を瞬く。
「そう……ですか」
「うん」
セナは椅子を軽く揺らす。
「たださ」
視線をユウリに向ける。
「回ってるだけなんだよね」
「戦争って」
静かに。
「誰かがやめようとしたら、多分そっちが消える」
ユウリは拳を握る。
「私、強くなります」
唐突な宣言。
セナは目を細める。
「ふーん」
「セナさんの隣に立てるくらいに」
沈黙。
セナは小さく笑う。
「やめときな」
「え?」
「隣、暑いよ」
軽い。
冗談みたいに。
「でも」
「ユウリ」
セナは言う。
「無理すると死ぬよ」
笑っている。
本気にも、冗談にも聞こえる。
ユウリは笑い返す。
「大丈夫です!」
その笑顔は、まっすぐだった。
⸻
夜。
共用休憩室。
セナは天井を見上げる。
「回ってるだけ、か」
ぽつり。
その声は、誰にも届かない。
遠くで。
ユウリが再び接続テストの申請を出していることも。
セナは知らない。
それとも。
知っていて、止めないだけなのか。




