第12話 視線の数
帝国簡易都市区画。
白い壁。
無機質な通路。
空は薄く曇っている。
セナはいつもの黒いパーカー姿で歩いていた。
ショートボブの髪を左耳にかける。
ふと、立ち止まる。
上空を横切る小型監視ドローン。
一機。
二機。
三機。
「……前こんなにいたっけ」
独り言。
すぐ歩き出す。
気にしていない顔で。
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■ 前日
格納庫。
接続値テスト終了。
リンクスーツ姿のセナがコックピットから降りる。
首元を開きスーツに空気を入れる。
整備士が端末を見ながら言う。
「本日の上限は30%までです」
セナ「は?」
「昨日80だったよね?」
「上からの通達で。安全管理だそうです」
セナは少しだけ目を細める。
「急に優しいじゃん」
笑う。
でも、目は笑っていない。
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■ 行きつけのカフェ
「いつものパフェひとつー」
店員が振り向く。
知らない顔。
厨房も。
カウンターも。
全員知らない。
セナはスプーンをくわえたまま首を傾げる。
「前の人たち、どこ行ったの?」
「配置転換です」
即答。
「へー」
クリームは甘い。
でも、どこか薄い。
ガラス越しにドローンが一瞬静止する。
セナは小さく呟く。
「露骨」
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外へ出る。
柱にもたれている影。
エル。
「奇遇だね」
優しい声。
セナ「……お隣さんさ」
「最近よく会うよね」
「第4部隊は連携強化中だから」
「僕は君の隣だし」
最初に一度だけ言う。
それ以上は強調しない。
けれど。
距離が、近い。
セナは空を見上げる。
ドローン。
街の視線。
上限30%。
店員総入れ替え。
エルの存在。
全部が、同じ方向を向いている。
「ねえ」
セナは歩き出しながら言う。
「なんかさ」
「ちょっと考えただけで、空気変わるって」
「分かりやすくない?」
エルは穏やかに返す。
「気のせいかもしれない」
セナは笑う。
「だといいけど」
少し沈黙。
「まあいっか」
肩をすくめる。
「暇だし」
「ちょっと触ってみよっかなって思っただけ」
エルは横目で見る。
「何を?」
セナは前を向いたまま。
「この感じ」
「動くかどうか」
くるくると髪を指に巻く。
「壊すとかじゃないよ?」
「そんな大層な理由ないし」
小さく息を吐く。
「ただ」
「退屈だから」
ドローンがゆっくり遠ざかる。
エルは何も言わない。
セナはそのまま歩いていく。
街はいつも通り。
戦争もいつも通り。
でも。
視線の数だけが、確実に増えている。
セナは気づいている。
そして。
まだ、本気ではない。
ただ。
少しだけ。
面白くなってきた、と思っているだけ。




