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第11話 監視される戦争

GRASP開発棟・データ管理室。


薄暗い室内。

整備兵のキーボード音と、遠くの工具音。


セナはソファにだらりと座り、端末をいじっていた。

表示されているのは過去十数年の戦闘ログ。


帝国の勝利。

共和国の奪還。

帝国の再侵攻。

拮抗。

拮抗。

拮抗。


セナは画面をスワイプする。


「……取って、取られて、取り返して」


指が止まる。


「終わらなくない?」


奥のデスクでデータを整理していた男が、視線だけを上げた。


アインス・クラウス。


「突然だね」


セナは視線を画面に落としたまま言う。


「勝っても意味ないでしょ?」


「昨日あたしが潰した駐屯地、もう取り返されてるし」


「なにそれって感じ」


アインスは端末を閉じる。


「均衡が取れているからだよ」


セナはゆっくり顔を上げる。


「均衡?」


「帝国が勝ちすぎても困る」

「共和国が勝ちすぎても困る」


「だから拮抗している」


淡々とした声。


セナは少し笑う。


「へー」


間。


「それってさ」


「誰かが調整してるってこと?」


整備兵の打鍵音がやけに大きく聞こえた。


アインスはわずかに視線を逸らす。


「そう考える者もいる」


「世界には“監視者”がいる、とね」


セナは立ち上がる。


「監視者、ねえ」


天井を見上げる。


なぜか、背筋がざわつく。


誰かに見られているような。


前からずっと。


戦場でも、格納庫でも、今も。


「……いるよね」


小さく呟く。


アインスは答えない。


セナは振り返る。


「所長さんさ」


「知ってるでしょ?」


にやりと笑う。


「均衡のこと」


アインスは肩をすくめる。


「仮に知っていたとして」


「私は兵器屋だ」


「戦争が続くなら都合がいい」


「終わらせる気も、止める気もない」


セナは少しだけ目を細める。


「そっか」


また端末をちらりと見る。


戦争グラフ。

勝率曲線。

異様な安定。


「やらせじゃん」


ぽつり。


アインスは静かに言う。


「壊せると思うかい?」


セナは一瞬だけ黙る。


そして肩をすくめた。


「さあね」


「でもさ」


「壊せるなら、面白そうじゃん」


その言葉に、わずかに空気が変わる。


アインスはセナを観察する。


兵器。

人間。

どちらでもない何か。


「可能かもしれないね」


それだけ言った。


セナは扉へ向かう。


「やっぱりさ」


「なんか」


振り向かずに言う。


「気持ち悪いんだよね、この戦争」


扉が閉まる。


静寂。


アインスは独り呟く。


「管理されているのは、戦争だけではない」


そして端末に新しいログが追加される。


【対象:セナ・セルド

観測優先度:上昇】


廊下を歩くセナは、ふと足を止めた。


まただ。


視線。


見えない何か。


天井。

壁。

空。


「……見てんの?」


小さく笑う。


「だったらさ」


「ちゃんと見といてよ」


「壊れるとこ」


そのまま歩き出す。


まだ、決意ではない。


ただの違和感。


だが確実に、

世界はセナを“重要観測対象”へと書き換え始めていた。

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