第10話 温度差
帝国第4部隊格納庫。
接続テスト終了。
GRASP-QΣ《クインヘイデス》のハッチが開く。
整備兵の声が響く。
「接続値80%。波形安定。揺れ無し」
「さすがDC3rdだな……」
セナはゆっくりと接続席から立ち上がる。
リンクスーツが身体に張り付いている。
黒基調に桃色のライン。
暑そうに肩までスーツを下ろす。
背中に冷たい空気が触れる。
「んー……あっつ」
髪を左耳にかける。
格納庫の隅で、以前食堂にいた帝国兵がこちらを見ている。
「おい、DC」
にやついた声。
「今日ヒマ?」
近づこうとする。
その瞬間。
「セナさん!!」
大きな声が響いた。
帝国兵が舌打ちする。
「ちっ……」
そのまま離れていく。
走ってくる影。
ユウリ・ラシアル。
息を切らしながら、飲み物を差し出す。
「お疲れ様です!」
セナは片手で受け取る。
「ん、どーも」
冷たい。
喉を鳴らして飲む。
ユウリは目を輝かせている。
「やっぱりすごいですね、80%で安定なんて」
「私なんて6%で限界で……」
苦笑い。
セナは肩をすくめる。
「DCだからねー」
「当たり前」
ユウリは悔しそうでも、羨ましそうでもない。
純粋に尊敬の目。
「でもすごいですよ、本当に」
少し間。
ユウリはセナをじっと見る。
「……なんか」
「前より、つまんなそうですね」
セナの手が止まる。
「んー……」
否定しようとして。
少し考える。
「そんなことない」
一拍。
「いや、そーかも」
遠くから怒号が飛ぶ。
「ユウリ・ラシアル!何やってる!」
「次お前の番だぞ!」
ユウリがビクッとする。
「す、すみません!!」
慌てて振り向き、
それでもセナに向き直る。
「それではまた!セナさん!」
深々とお辞儀。
走っていく。
遠くでペコペコ頭を下げているのが見える。
セナはその背中を見送る。
リンクスーツを完全に脱ぎ、肩を回す。
格納庫の音が遠くなる。
「そうだね」
小さく呟く。
「前より、つまんない……」
視線はクインヘイデスへ。
黒い機体。
桃色の発光ライン。
「じゃなくて」
目を細める。
「気持ち悪い、かなあ」
天井を見上げる。
戦争は続く。
勝っても、終わらない。
負けても、終わらない。
80%でも足りる。
でも、何も変わらない。
「……薄っぺらな戦争」
小さく言う。
クインヘイデスの装甲が、静かに光った。




