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89 わ~れ~わ~れ~わ~

村に来て数日が経った。

この数日はまったりとしながらも忙しかった。


生活で足りない細々した物の買い足し、畑の準備、漁のお手伝いに家の防音結界の付与依頼。戦闘とは離れた日常を満喫していた。


家の横にある畑は、両手を地面にあて[土壌変化]を端から順に使用することで、ふっかふかの土へと変わった。その際にはユリアが「ペーハーが…」などと言いながら様子を見に来てくれていた農家さんからいくつか肥料を買っていた。

それをリーゼが指示されるままに予定地にばら撒いて2度目の[土壌変化]を全体に使うと、綺麗に混ざり切ったようでユリアも満足気であった。


それを見ていた農家さんに「うちでもぜひやってくれ」と懇願され、一日中引っ張りまわされた。魔力回復のため休み休みではあったが、何とか村中の準備中の畑については手入れができた。

「来年は全部の畑を任せたい!」と言われたが、さすがに全部は無理!というか面倒なので正直断りたかったが、羨望の眼差しを向ける農家さんたちに負け了承してしまった。

そして僕の[魔法の箱]には大量の農作物がお礼として収納された。


[土壌改良]はマジックモウルだったはず。『迷いの森』には今年中には行かなくちゃ…そしてみんなにも[譲渡]して手伝ってもらおう。そう思いながら家に戻ると、すでに畑は綺麗に畝ができており、何かを植え終わった後だった。

畑の横に設置されたベンチでお茶を飲んでいる女性陣に出迎えられ、しばしお茶を飲み休憩を取る。そんな一日も良いものだと思ってしまった。


翌日は港まで案内され、漁のお手伝いを体験した。

海には一部大型の魔物が居ると言うが、数キロ先で『地雷網』という50cm程度の網の目の粗い罠で囲われているそうた。

魔物はそれ以上のサイズだと言うのでその網を越えることはなく、網に囲まれている漁場と呼ばれるエリアは安全だと教えてくれた。


バブル海牛やドレインシャーク、キングキャンサーといった魔物は網の電撃ですぐに逃げて行くという。


それでもシードラゴンやサンホエール、デビルクラーケンといった大型の魔物が網を破ろうと迫ってくることもあり得ると言う。その場合は警報が鳴るので、遠距離攻撃のできる人たちで追い返すことになっているという。

僕たちもいざとなったら参戦してほしいとお願いされた。


その日は船に乗せられ投網を引くお手伝いをしたが、みんなそれなりのレベルになって力も強くなっているので、楽々と投網を投げては上げを繰り返していた。特にリーゼとセシリは凄い勢いで引いていたので、僕も負けじと網を引いた。


[魔法の箱]にはお礼の魚介が大量に収納された。少しづつ消費していかないと、野菜に魚介しか入らなくなりそうだった。バッグもあるから良いけどね。


そして3日目にはベッドが運ばれた。

天幕付きの豪華な大きなベッドが3つ。運んできた村の専属の職人のドワーフ族のヘパイトスさんは、術具師クラスという珍しいクラスの様で鍛冶や錬金に優れたドワーフ族の中でも腕は(自称)一番だと言う。

ベッドには安眠と防音が付与されているが、天幕を上げるとその効果は解除されるとのこと。さらにマットレスの方は疲労回復、肩こり、腰痛にも効果を発揮するという優れものらしい。

そして同じく依頼していた家の壁に対する防音付与についても、その日のうちに対応してくれた。これで不本意ではあるが周りにばれることなく歌うことができる。


夜はヘパイトスさんも招待して、夕食を頂いた。

ユリアがどこかで買っておいたのか、高そうな瓶に入った酒をすすめ、ヘパイトスさんもかなり上機嫌で飲んでいた。


ユリアは「ドワーフと言えばお酒でしょ!」と言っていたが、そう言うものなのだろうか?


その翌日にはユリアが朝早くから「ヘパイトスさんのところに行ってくる!」と出掛けて行った。なんでも作ってほしいものが山ほどあるとのこと。仕方なく個人口座に預けてあった白金貨30枚を村の冒険者ギルド(仮)で引き出して渡しておいた。

「レアな素材とかない?」とか言われたが、リーゼもクラウも素材としてバッグに残っているのは肉だけだったので、「まあいいか」と言いつつ風のように走り去っていった。


その日の夜、夕刻過ぎに戻ってきたユリア。

そしてバッグから髪を乾かすドライヤーという魔道具や、マッサージチェアという体をもみほぐす魔道具、ファンと言うペラペラの何かを回転させて風を送るセンプウキというものを取り出し、その機能を嬉々として説明していた。


確かにドライヤーやマッサージチェアは良いものだと思った。センプウキもこれから暑くなるので良いものだろう。だが、センプウキの前で「わ~れ~わ~れ~わ~」と言ってケタケタ笑うユリアを見て、何がそんなに楽しいのか?と思ってしまった。

それも見ていたリーゼも、ユリアと一緒になって声を揺らしていたが…あれ?僕もちょっとやってみたいかも…


そんな気の迷いを感じながらも1日が終わった。


暫くユリアはヘパイトスさんのところに通うというので、僕たちものんびりと畑の雑草取りや漁の手伝いをして日々を過ごしていた。

そんな中、冒険者ギルド(仮)から畑が荒らされるので何とかしてほしいという依頼が来た。Dランクの依頼だけどこの村の冒険者としては僕たちだけなので、大体の依頼は僕たちに回ってくるようだ。


一応僕やリーゼ、クラウは冒険者カードは封印し、他の誰かのカードで依頼を受けることに決めていた。居場所がばれ、子爵様に迷惑がかかってはいけないからね。


こうして、この村での初めての依頼の詳細を聞くため、被害にあった農家さんの家へとユリア以外のメンバーで足を運んだ。


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ヘパイトス

ベイシ村の専属の職人のドワーフ族。術具師クラスで鍛冶に錬金術に薬学にも精通。180cm/120kgとビッグな体にもさもさの顎髭がトレードマーク。酒とレア素材に目がない男。

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