90 ひどい…こんなにカラカラになっちゃって…
被害を受けた農家さんのところへ尋ねると、「まあまあまあ」と明るく向かい入れてくれた。
麦茶を頂き話を聞くと、やっと苗が育ちこれからだという畑が一晩のうちに萎れ、土もカラカラになってしまったという。
その前の晩には隣の畑が同じ状態になったので、次はここらだろうと1枚の畑を指差し教えてくれた。
まずは原因を探ってほしいという事で依頼が出ていた。
ちなみに報酬は協議の結果、豪華野菜詰め合わせという事で喜んで依頼を受けることになった。
夜に僕がその畑を見張ると、リーゼとクラウが念のため近場の畑を監視してくれた。いざという時に隠密スキルがあるからと言う人選である。
そして日付が変わった時間帯、見ていた畑の2つ隣の畑で何やら赤い物体が…よく見ると蝙蝠の羽のようなものが生えた真っ赤な存在がいるのに気付く。
その赤いのがこちらを振り向くと、気付けばボーと畑を見ていた。
畑の作物は被害にあった畑と同じようにしおれている。
「ひどい…こんなにカラカラになっちゃって…」
あれがその原因なのだろう。見た瞬間に夢の中にいるような感覚になったのは、あの赤い何かのスキルなのだろう。
そして次の日の朝。
依頼主のおばさんにはそのことを話し、止められなかったことを謝ると笑顔で背中を叩かれた。そして「ご苦労さんだったね」と言って美味しい朝食をご馳走してくれた。
リーゼとクラウと共に、今夜こそ絶対にあれを倒して見せると決意した。
少し仮眠を取ってから、夕刻過ぎに今度は全員で畑にやってきた僕たち。
まずはカラカラになってしまった畑を、[土壌変化]でふかふかにしておく。肥料も混ぜておいたのであれを討伐した後、すぐに新しい作物を植えることができるだろう。
そしてしばし休憩。
おばさんから農作業についての苦労話などを聞き、楽しくも勉強になる時間を過ごした。農業って奥が深いなー。
そしてその夜、みんなで近くの畑を見守る。
今度は広範囲でペアを作りながら、あれに気付かれる前に僕が倒してしまおう作戦で挑む。
そして昨日と同じように日付が回った頃、リーゼから『私のところに何かいるよ』と[絆の心]で連絡がきた。事前に、見つけても動かないように連絡だけしてと伝えてあった。すぐに[隠密]を使いつつリーゼの近くに移動する。
『兄ぃ、レッドインプって魔物。悪意を持った妖精の成れの果てのような存在だってさ』
近くにいたユリアも遠目からその存在を確認したようで、[鑑定]結果を教えてくれた。
なるほど。妖精さんということでは無いようだ。魔物であれば安心して倒してしまおう。そう思って[火炎]の矢でそのレッドインプを打ち抜いた。撃ち抜かれた瞬間、大きく口を開け驚いた表情をしたそのレッドインプ。
地面に落ちたその亡骸は、塵のように崩れ去って消えてしまった。
そして出現するスキル玉。異界の外では初めてのスキル玉の出現に、少しドキドキしながらつんしてみる。
―――スキル[赤い妖精眼]を覚えました。
聞いたことも無いスキル[赤い妖精眼]の説明欄には『幻想に誘う視線』となっていた。
試しにリーゼに使ってみると、急に無言になり眠そうな表情でただ目の前の1点を見つめるようにしていた。肩を叩いて声を掛ければすぐに意識は覚醒したようだが、どうやら対象を催眠か何かの状態異常にするようだ。
消費魔力は5とそんなに多くはないが、かなり強烈なのかもしれない。と思っていたら、クラウやユリア、カロナの3人には全く効果がなかった。魔力が自分より低くないと駄目なのだろうか?
だとしたら、レッドインプの魔力は僕より高かったということなのだろう。[赤い妖精眼]はスキルレベルも無いようだし、効けばラッキーみたいなスキルかもしれない。
スキルの検証を終えた僕は、ようやく先ほどから僕の周りに纏わりついている3つの浮遊物について考えようと頭を切り替える。見る限り妖精な見た目に困惑する。
3匹?と言ったら良いのだろうか。ふわりとした髪と同色の緑と青、茶色のドレスを身に纏い、背中に4枚の羽をもつ小さな浮遊体。
その3匹がさっきから僕の顔の周りを飛んでいて、僕に向かって口を尖らせチューチュー何かを吸っているように見えているのだ。
ユリアに「これ見えてる?」と妖精を指差すが、何も見えないようだ。
『見える?』『見えてる?』『心通じた奇跡』
急に[絆の心]のように脳内に声が聞こえてきた。
「聞こえてるし見えてる、かな?」
多分妖精たちなのだろうその声に応えるようにそう伝えると、3匹は嬉しそうに頭の周りをぐるぐる回っていた。
『そうだ仲間!』『そうだ捕まってた』『助けて助けて』
そう言って3匹は森の方に向かって少し飛び、くるくると回っている。
「ちょっと、妖精に助けを求められてるっぽいんだけど…みんなはこの声は聞こえてたりする?」
「兄ぃ。何言ってるの?」
ユリアが心配そうな目を向けてくる。
どうやらこの脳内に響く声も僕以外には聞こえてはいないようだ。
「[赤い妖精眼]ってスキルの影響なのか分からないけど、妖精みたいなのが見えるようになったんだよね。今も助けてって言ってあの辺を飛んでる」
「何それ!私もほしい!」
ユリアの視線が僕と僕が指さした方向を行ったり来たりしている。
「とりあえずその妖精について行こうかなって」
みんなにそう告げて妖精たちの後を追う。
少し森に入ると大きな木のところで3匹が止まる。外周とは言え、ここに来るまで魔物と一切遭遇しなかったのは少し気がかりだが、まずはその木を確認する。
そしてその木の上の方、木の蔦に絡まれるように多数の妖精が捕まっていることに気付いた。
『赤いのに捕まった』『毎日吸われてる』『精霊力チューチュー』
どうやらレッドインプに捕まえられ、精霊力というのを吸い取られていたようだ。その影響かは分からないが、どの妖精もぐったりとした顔をしてこちらを見ている。
急いで妖精たちを魔短剣で助け出そうと蔦を切ってゆく。
助けるたびにその妖精たちが僕の周りをくるくると回っていて、正直視界がうるさくてやりづらい。お願いだから少し離れて待っていてほしい。
5分程度でなんとか全員助け出すことができた。
僕はチカチカする目を押さえながら、ホッと胸をなでおろした。
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レッドインプ
悪意を持った妖精の羽が消え、代わりに蝙蝠のような羽が生え、魂までも魔物に落ちてしまった存在。基本は異界に居るが妖精だった名残で異界を自由に出入りできる。妖精の持つ精霊の力、精霊力や土地の豊富な栄養を吸ったりする。固有スキルの[赤い妖精眼]の行使により、短時間だが催眠状態にすることができる。
妖精さん
俗にいう精霊の子供。エルフなど視えるものたちから見ると精霊の光であるが、精霊に認められた存在にはその姿を表す。小さい体に背中に4枚の羽。数百年を経て成長すると精霊として育ち、どこかの土地を守るようになり、その土地に加護を与える。
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