83 お兄ちゃんももっとユリアのことを知りたいなって
「じゃあ、話して」
大きな円卓を囲み、隣に座るユリアから説明を求められる僕。
僕たちは冒険者ホテル・トーキュオイーンに場所を移すと、すぐさま数泊の予約が残っているブチスイートを破棄して、ロイヤルスイートを1泊だけ貸りた。
もちろん最初はユリアたち用に別の部屋を取ろうと思ったが、それをユリアに全力で拒否されたからだ。
「まずは、ユリアとカロリーナ様は開化の儀を行ったばかりだよね?まだ4月に入ったばかりだよ?少し早くない?そのまま僕たちの元にたどり着いたってこと?あと、なんで[譲渡]とか称号とか分かっちゃったの?
[鑑定]スキル?それとももっと別のスキルかな?お兄ちゃん、一応偽証の為のブレスレットしてるんだけどね?そこのところを、もっと詳しく聞きたいな?」
僕はこの場の空気に堪え切れずに質問で返す。
「質問しているのはこっちだよ兄ぃ?」
ユリアは笑顔だけど少し恐怖を感じてしまう。
だがそれに負けるわけにはいかない。
「そうなんだけど、お兄ちゃんももっとユリアのことを知りたいなって」
「そう。それなら仕方ないよね。まったく兄ぃはもう!ほんともう!なによもう!仕方ないわねーもう!じゃあ、教えてあげるね!」
急に頬を押さえて悶えながら説明を始めたユリアを見て、何とかなりそうかな?と思ってしまう。周りを見ると、リーゼとクラウは何とも言えない戸惑いの表情をしている。
カロリーナ様はニコニコと笑顔でこちらを見ている。侍女の2人は無表情だ。
セシリは相変わらずだな。隣の子はセシリと似ている。やっぱり姉妹かな?
そんなことを考えつつもユリアの早口の説明を聞いていた。
僕が追い出されたことを数か月前に聞いた事、それですぐに教会で開化の儀を受け賢者クラスになったこと、そのまま王都で情報を集めながらセシリと2人でレベル上げをしていたこと、暫くして同じように開化の儀を終わらせ、[聖女]クラスとなったカロリーナ様と合流したこと、お互いの侍女を合わせたこの4人でレベルを20まで上げた後、僕を探しにきたということを教えてくれた。
そして、ユリアは魔力のある限り昼夜を問わず[鑑定]を使い続け、現在Lv3の為、僕の能力板は丸見えだとか…
「で、兄ぃとその2人の関係、聞かせてくれるかな?」
笑顔のユリアの顔が迫ってくる。
「わ、分かってるよ」
そう言って、簡単にこれまでの経緯を話し始めた。
「なるほど。2人は兄ぃのお嫁さん候補ということだね。もう一緒に寝てるぐらいだし…もうやった?」
「やったって…何をかな?」
「そりゃ男女のあれだよ?分かるよね?赤ちゃんできちゃうやつ」
僕はユリアの口を両手でふさぐようにして反論した。
「そんなことする訳ないでしょ?まだ僕たちは子供なんだよ?お兄ちゃんは悲しいよ!そんな恥ずかしい事、ユリアは口にしちゃだめだよ?侯爵令嬢なんだからね?分かった?何もないから、ただ一緒に寝てるだけ。分かった?」
ユリアがこくこくとうなずくのでユリアの口から手を離す。
「で、どうやったら親愛な女になれるの?そこを早く!じゃないと[譲渡]とかできないんでしょ?それともやっぱり言えないことしちゃってるの?」
「ぐっ…」
ユリアの言葉に息がつまる。ごまかしたい部分なのに…
「ユリアちゃん。わたくしにもそろそろ説明いただけませんですの?」
「あっ、そうだね。少し補完するね。これじゃカロナっちもわけわかんないだろうし…」
僕は2人の会話に仲が良いなと思いながらも黙って聞いていた。
カロリーナ様に僕が大量のスキルを保持し、しかもスキルLvがMaxものが大量にあること、リーゼとクラウも似たようなスキルをクラスではありえないほどに保持していること、そして僕に[譲渡]という『親愛なる者へ力の一部を譲渡する力』というスキルがあること、2人が[大盗賊の親愛]という称号を持ち、僕が[2人からの親愛]という称号を持っていることを説明していた。
「アレスちゃん…良ければわたくしも、その親愛なのにして頂きたいですわ…」
「えっ、どういうこと?カロリーナ様の言ってる意味が分からないんだけど…」
カロリーナ様らしくない小声で僕に話しかけてきたその内容に、理解ができず戸惑った。しかも彼女の顔は真っ赤だ。どういう事だ?あのカロリーナ様がなんでそんな表情で僕を見ている?
「はぁぁぁー」
戸惑う僕を見ているユリアから、大きなため息が聞こえる。
「兄ぃ、カロナっちも兄ぃにガチだから」
「ガチ?ガチってなに?もっとわかりやすいように言ってくれる?」
ユリアの言葉も理解できず、困惑するばかりだ。
「カロナっちは、本気で兄ぃのことが好きなの」
「そんな、バカな…」
僕とカロリーナ様はただの婚約者だっただけの関係。そんな感情などありえないことだ、と思ってカロリーナ様を見ると…顔を真っ赤にして縮こまっていた。
「言っておくけど、兄ぃが強くなったから好きになったって訳じゃないから。一目惚れだってさ。教会で初めて会った時から好きだったけど、素直になれなくてって言う、いわゆるツンデレってやつ?もう兄ぃにメロメロ。貴族院で仲良くなってから兄ぃに好きって言いたいのに、ってもう何度も聞いたから」
「えっ本気?ツンデレって、昔言ってた本当は好きだけどでも素直になれなくて、ってやつ?」
僕の言葉にユリアはうなずき、カロリーナ様はもう耐えられないとばかりにベッドに走り出し、うつ伏せでダイブしていた。これは、本当なのかな?
「で、兄ぃはどうなの?カロナっちの事は」
「でって言われても…あっ!そもそも婚約とかもう解消されてるんじゃない?僕、家を追い出されちゃってるし!」
「それなら大丈夫ですわ!」
ガバリとベッドから顔を上げこちらも見ているカロリーナ様。まだ顔を赤いけど。
そしてふらふらとした足取りでこちらへ歩いてくると…
「アレスちゃん。私、ハゲ父上のところにも寄りましてよ。婚約を破棄したなんて戯れ事を言うものですから、少し毟ってあげましたわ。母上もアレスちゃんのことは問題ないとおっしゃってましたし、だから、わたくしも親愛な女に、加えてくださいまし…」
「カロリーナ様…」
か細い声でそう言ったカロリーナ様は、僕に倒れ込むように体を預けてきたので支えるように抱きしめる。
そして照れて慌てて体を離すカロリーナ様。
そしてしばし固まった後…
「まぁ!まぁー!ユリアちゃん、見てくださいまし!これを、わたくしもやってやりましたわ!アレスちゃんの愛をしっかりと頂きましてよ!」
そう言って見えるように出し直したであろう能力板を、ユリアに何度も見せているようだ。
まさか!と思って自分も出して確認すると、称号が [3人からの親愛]となっていたので崩れ落ちるように椅子から落ち膝をつく。
「アレス?」
「私たちにも詳しく話をするべきでは?」
気が付けばリーゼとクラウが僕の前に立っていた。
もうどうしたら良いんだろうね。
大きく息をはき、今すぐベッドにダイブして眠りたかった。
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フランソワ・レイッヒ
レイッヒ公爵領当主、ナパーズの妻であり、長女カロリーナの母。クラスは不明。元々は王家の血を引く家系の子爵令嬢。箸より重い物を持ったことのない美しい女性。カロリーナを溺愛し、常に優しく見守っている。
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