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82 ちょっと!アレスに何するの!離れてよー!

強烈なタックルを食らった僕は冒険者ギルドのロビーで多数の冒険者が居る中、押し倒されてしまった。


「ちょっと!アレスに何するの!離れてよー!」

「そうですよ!アレスから離れて下さい!」

2人が僕の上に乗る人物を引きはがそうとしているが、僕はガッチリとホールドされて身動きができない。


「ユリア、ちょっと、苦しいかな?」

「兄ぃ!兄ぃ!探したんだから!もう離さないから!」

僕を兄ぃと呼ぶ妹のユリアは、僕の胸に頭をスリスリと擦り付け、少し涙声で叫んでいた。


「兄?えっ?妹なの?」

「妹さん?そう言えばユリアちゃんって聞いてましたけど、本物の妹さん?」

リーゼとクラウの2人も、戸惑いながらもユリアから手を離す。


「カロリーナ様も…お久しぶりですね」

「おーほっほっほ!わたくしもアレスちゃんに抱き着きたいところですが、今はユリアちゃんに免じて黙って見守りましてよ!」

「カロナ様、ご配慮痛み入ります」

「カロナ様、理解ある大人の余裕」

僕を見下ろすカロリーナ・レイッヒ公爵令嬢は、以前と同じ調子で扇子を片手に高らかに笑っている。が、抱き着きたいとは?


その傍にはワルツ男爵家の三女、ユリアの侍女のセシリーナ、それともう一人、セシリーナとそっくりの女性の姿も見えた。


「ユリア、お兄ちゃんそろそろ恥ずかしいから、どこかでちゃんと話そう?ユリアの話も詳しく聞きたいからね」

「うん…分かった」

そう言うとユリアは涙を指でぬぐうと僕から離れてくれた。


「私も兄ぃからちゃんと話を聞きたい。ありえない数のスキルと、そこの2人も同じようなスキルがいっぱいあることの説明を…[譲渡]スキルと兄ぃの称号を視たから、なんとなく分かるけど…」

ユリアの冷たい笑顔に少しだけ恐怖を感じながらも、僕たちは宿へと場所を移動してゆく。


◆◇◆◇◆


レイッヒ公爵家の長女として生まれたわたくし。


立派な公爵令嬢として育ったわたくしは、貴族院への入学が決まった7歳の時、ハゲ父上に突然婚約が決まったと言われ、侯爵家の三男だという男の子に会うことになったのですわ。

ハゲ父上と一緒に公爵領の正教会へ赴き、初めての顔合わせ。


1つ年上の8才だと言うが貴族院には通っていないのだとか。今思えば貴族院がほぼ女性ばかりというのは分かっておりますが、その当時は貴族院に行かないのはバカなお子ちゃま。と思っていたのですわ。

そんなバカな子と会うなんて時間の無駄ですわ!そう思いつつも初めての対面。


わたくしに対する第一声が「まあ、なんかそうなったようだから、よろしくね」となんとも気の抜けた挨拶と、何も考えていないようなヘラヘラとした笑顔を私に見せていたのですわ。


なんて、可愛いのかしら…


正直、今までハゲ父上に紹介された男の子たちは、わたくしを公爵令嬢としてしか見てくれていなかったように見えたのですわ。もちろん相手はどの子の家も格下のため、当然のことでしたけれど…

そんなわたくしの目の前にあらわれた彼、アレスちゃんは年上だと言うのに年下のように可愛くって、その上、わたくしを公爵令嬢ではなくただの女の子として見てくれている。そのように感じたのですわ。


初めての感じる感覚に身もだえし、恥ずかしくなってしまったわたくしも、ここは公爵令嬢として礼を尽くさなくてはいけませんわ!


わたくしがそのようなことを長考していたにも関わらず、目の前のアレスちゃんは…教会の床の溝を指でなぞって小声で歌ってましてよ…素敵ですわ!


「こ、このわたくしが、あなたの許嫁、カロリーナよ!特別に、カロナと呼んでもよろしくってよ!」


しくじってしまいましたわ!

遊びに夢中のアレスちゃんにも聞こえるようにと開いた口から、思わず高圧的な言葉が出て反省したわたくしに、アレスちゃんは「うん。僕アレス。よろしくねカロナちゃん」となんとフラットな返答が…


これはもうお嫁に行くしかないですわ!わたくしはその時そう誓いましたの!


だってだって、女同士のお友達でさえ、いつもお腹の探り合いをしてますわよ?貴族たるもの常に相手を見透かして、そして何かあれば食い破ってやろうと狙っているのではなくて?

それが目の前のアレスちゃんと来たら…

一応、侯爵家なのよね?三男だからなのかしら?隙があり過ぎて逆にそれが好きって言うか…とにかく好きになっちゃったのですわ!


結局、その後もわたくしの口調は変えられず、高圧的な態度でおしゃべりしてしまいその日の初対面は終了したのですわ。

その夜はベットで布団をかぶって悶え『大失敗してしまいましたわー!』と叫んでしまいましたことを、今でもはっきりと覚えておりますわ…


それから3度程、アレスちゃんにお会いしたわたくしは、結局最後まで態度を改められずにいたのですわ。本当はもっとアレスちゃんに甘えてかまってほしかったのですのに…


そんな苦い思い出しかないわたくしですが、今度こそは絶対に素直に甘えて見せますわ!そう思って親友のユリアちゃんと共に、アレスちゃんを探す旅を続けているのですわ。


宿の一室で「待っててくださいましアレスちゃん!今度こそ、愛してますわと伝えて見せますわー!」と朝から叫ぶわたくし。

隣に控えているサリアちゃんから「その意気ですカロナ様」と励まされ宿から出ると、ユリアちゃんと共に目撃情報があったベイリン子爵領へと、侯爵家の馬車に乗り込み爆走するのですわ。


愛しのアレスちゃんに出会うまで、この4人の旅は続くのですわ!


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バイアル・ベイリン

ルーデイル・ベイリン子爵様の叔父(父親の弟)で神官クラス。現在は北部のベイシ村という小さな農村の村長をして余生を過ごしている。若い時は子爵様を支え、領土改革に知恵を貸していたという。


ベイシ村

ベイリン子爵領の冒険者ギルド・北部分所のさらに北、西側に少し進んだ先にある小さな集落。北部の海での漁業と、村の大部分の畑、南部を『最果ての森』の外周があるため、生活維持の為の魔石にも困らないのどかな場所で、北部分所からは週末の聖の日の朝晩に往復の乗合馬車が出ている。

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