74 すみませーん。お手紙持ってきましたー!
暗部の死神と名乗る強襲者が消えた室内。
机に突っ伏したままのギルドマスターに声を掛ける。
「あのー、クライフさんはあの人がいたのは知っていたのですよね?」
がばりと顔を上げ引き攣る笑顔を見せるクライフさん。
「まあ、色々あってね?分かるだろ?国からそう要請されたら断れない、所詮はギルドの弱~い立場って奴がさ?」
「それは分かりますけど…」
クライフさんがまた頬を掻きこちらに笑顔をむけた。
「と言うわけで、素敵なスカウトを断ってしまったアレスくんたちには、新たな指名依頼が入っているよ」
「あの、お断りしても良いですか?」
「僕としては話を聞いてくれると嬉しいんだけどね。じゃないと強制指名になってしまうから、色々と面倒で…」
どうやら強制らしい。
僕が大きなため息をつくと、クライフさんは新たな依頼について話しはじめた。
「とりあえず、今回はベイリン子爵家からの依頼だから。報酬の方は期待してくれて良いからね」
「子爵家からですか?」
「そうそう。子爵家から」
王家じゃないなら良いのかな?そう思っていた僕に、クライフさんは続きを話し始める。
分かってはいたが、結局王家絡みのことだった。
ただ、王家へ貸しを作りたい子爵様が例の事件絡みで、ニガリッソ男爵家の調査をお願いしたいという。
ベイリン子爵家は複数の異界があるこの領土を、うまく冒険者を集めて運営しているようで、相当な資金力があるそうだ。だからどんな結末であれ事件の背景が分かるのであれば、白金貨200枚は約束するとのこと。
ついでにその成果を持って伯爵に陞爵を狙っているんじゃないかな?という真偽不明の話も教えてくれた。
話の合間に聞いてもいない裏事情を教えられるので、なんだか逃げ道を塞がれているような気もする。現に「ここまで話したんだからな?受けてくれるよね?」なんて言っている。そっちが勝手に話したのにね。
それでもエクワード殿下を守るため、と言われれば受けざるえない。
『どうする?可愛い弟、エドの未来を守るためだし、これは受けるしかないよね?』
『そうですね。報酬もたくさん出るようですし、ニガリッソ男爵領にある森には珍しい魔物も出現するようなので、私たちにとっても都合が良いのではないでしょうか?』
一応2人にも[絆の心]で確認すると、クラウは賛成のようだ。
『ねえ、エドって年上だよ?なんでアレスの弟なの?』
『えっ?年は関係ないよ?エドは僕の弟分だからね!』
『リーゼ?ここはアレスの戯言には突っ込まないのが優しさですよ?』
『ちょっ、クラウまで戯言って…』
『分かったー!新しい森、楽しみだねー!』
どうやらリーゼも依頼についてだけは、賛同してくれるようだ。
「とりあえずやりますけど、あっちの領には何の伝手もないので、冒険者ギルドが後押ししてくれるってことで良いんですよね?」
「もちろんだよ。向こうのギルドには連絡しておくし、紹介状も書いておくから持って行ってね。それと出発が決まったら教えてほしい。イプロス男爵領からバリン伯爵領を抜けるルートだけど、馬車を手配しておくからね」
嬉しそうにそう話すクライフさんを見て、ギルドマスターも色々と大変なんだろうな。と改めて思った。
◆◇◆◇◆
それから2日ほど体を休め、ギルドの手配した貸し切りの馬車にゆられ4日かけてニガリッソ男爵領へと移動する。
クライフさんの「護衛とか要らないよね?」という言葉により、御者のおじさんとその世話役の女の子はいるものの、基本自分たちで食事の用意などもしなくてはいけないようだ。
とは言え、馬車は3人が横にならびゆったりと座ることのできる大き目の物で、乗合のように大きいだけで乗り心地の悪いものでもなく、むしろふかふかの座席は、いかにも貴族が使うような馬車だった。
さらには座席を倒せばそのままベッドになるというもので、夜は一応は警戒しつつも何かあれば[危険察知]もあるのだし…と爆睡してしまった。
そして何事もなくニガリッソ男爵領の主要都市、ニガールに到着した。
この領には迷いの森という小さな森しかないため、冒険者ギルドはかなり小さな掘っ立て小屋のようなものであった。そんな冒険者ギルドへと入ってゆく。
中へ入ると5人程の冒険者と思われる男女がいるだけで、小さなカウンターには2人のギルド職員と思われる女の人が暇そうに座っていた。
その全員が、入ってきた僕たちに目線をむけた。
そして5人の冒険者の内、男性の3人がニヤニヤとこちらを見ていたので、また何かあるのかな?と思ってしまい小さく息をはいた。
気にしないようにカウンターへ向かうが、当然の様に男の一人が立ちふさがるので足を止める。
『どうする?』
『今日は私がやる?』
『リーゼがやると手加減できなくて大変になりそうです。今回もアレスに任せておけば良いと思います』
『また僕?まあ弱そうだし、本格的に絡んで来たらにしておくよ』
そんな会話を脳内でしていると、僕の肩を押す目の前の男性。
「おい挨拶はどうした?ビビってるのか?何とか言ったらどうだ?」
「はは。どうも」
そう声をかけてからその男性をすり抜ける様にしてカウンターまで移動する。
背後から「へっ?」と間抜けな声が聞こえてきた。
すぐに「待てよ!」と肩をつかまれたので、振り向いて一瞬だけ[睨む]と、悲鳴を上げながら横に飛び退き、膝から崩れ落ちた。やっぱり便利なスキルだな。
崩れ落ちた仲間を見て、残りの男2人もこちらを一瞬睨み…すぐ目をそらされた。これはうまく切り抜けれたということで良いのだろうか?
「アレスいこー」
「行きましょう」
2人が両隣に移動してカウンターへとようやくたどり着く。
背後から「覚えてろよコノヤロー!」と多分だが先ほど崩れ落ちた男性であろう絶叫が聞こえ、振り向けばギルドの入り口から走りさる男性と、それを追いかける残りの4人の姿を眺めていた。
これで安心して手紙を出せる。
ホッと胸をなでおろしバッグから手紙を取り出した。
「すみませーん。お手紙持ってきましたー!」
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アレス クラス:大盗賊 Lv58
体力530 魔力580 外殻510
力60 硬60 速80 魔67
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Up [黒牙/Max/黒曜石の礫を飛ばす]
Up [不可視の風/Lv1/無数の風の刃を放つ]
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リーゼロッテ クラス:剣士 Lv45
体力450 魔力230 外殻900
力135 硬54 速81 魔27
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Up [剣術/Lv3/剣の扱いがうまくな]
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クラウディア クラス:魔法使い Lv44
体力220 魔力1540 外殻440
力53 硬26 速79 魔185
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Up [火炎/Lv3/炎の矢を飛ばす]
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ニガリッソ男爵領
シオール・ニガリッソ男爵が治めている領土で、迷いの森という異界がある。主要都市のニガールはあまり賑わっているとは言えない。
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