73 アレスは大幹部で女も選り取り見取りになるじゃろな
ギルドマスターの執務室。
僕たちをため息をつきならが見ているクライフさんが「んんん!」と咳払いする。
「じゃあ、まずは手紙から預かろうかな?」
その言葉で緩んだ頬をひきしめ、クライフさんにシャルロットさんからの手紙を渡す。
中を確認したクライフさんは、「うーん」と唸っていた。
「昨日、簡単にだけど通信具でシャルロットからは聞いていたけど、ここ数日の納品素材の詳細を見て改めて考えなきゃなと思っているよ」
「考えなきゃって何をですか?」
「ああ、冒険者ランクなんだけど…とりあえず僕の権限で3人共、Aランクに昇格をと思っていたんだけど…Sの方がよかったかもと思ってしまうよ」
「Sなんてそんな!と言うかAだって信じられないのに…本当ですか?」
クライフさんの言葉に戸惑ってしまう。
僕はまだ11才。開化の儀から1年まだ経ってないのにAランクなんて、夢でも見ているのだろうかと思ってしまう。
「実際凄い成果だからね?普通のAランクでさえドラゴンとか狩らないからね?ただでさえあの事件の糸口を見つけてきてくれて、しかも容疑者を捕縛までしたんだから…十分すぎるぐらいだよ?」
そんなことを言われても…困惑をしつつも思い返すと確かに色々あったなと改めて思う。僕はこんな波乱な人生を送るつもりは無かったんだけどな…
「それと、本題の例の事件の話なんだけど…」
そう言ってあの事件のことを話しだしたクライフさん。
まず報酬としては捕縛などの全部を含め、白金貨100枚。
クライフは「少ないだろうけど王国側もこの話は公にできないことが多すぎて、あまり多くを捻出できないようだから勘弁してね」と言っているが、十分な気がする。
そして事件について、流石に全部は話せないけどと言いつつもかなり詳しく教えてくれた。
僕たちが捕縛したのはあの『王都の竜』という3人組と、他の5人は『高貴なる竜』というAランクパーティらしい。
その『高貴なる竜』のリーダーはダイダルス。僕たちが捕まえたあの男性冒険者5人組で活動していたようだ。そしてダイダルスは『王国の裁定者』というクランのクランマスターでもあるそうだ。
その『王国の裁定者』の後ろ盾はニガリッソ男爵で、今はそっちに王国から密偵を送って関連を調べているらしい。
王国としてはニガリッソ男爵が西の帝国と何らかの手を組んでエクワード殿下を狙った行為なのか、それとも皇后殿下率いる中立派の貴族の差し金かと頭を悩ませているようだ。
なんなら保守派の一部の貴族の暴走という線もあるとのこと。
ニガリッソ男爵は一応はエクワード殿下率いる改革派と言われているため、それが殿下の暗殺を企てたのなら、かなり根が深そうな何かがあると見ているらしい。
それにしても、ただの冒険者な僕がここまでの"きな臭い情報"を聞いて良いのだろうか?と考えてしまう。
「あのークライフさん。かなり詳しく裏事情とか聞かされてるような気がしますが、これ以上は物騒な話に巻き込まれたくないのですが…」
「まあ、そうだね」
クライフさんが頬を掻きながら、すまなそうにこちらを見ているが…
「うわっ!」
「「アレス!」」
突然の[危険察知]の反応に、僕は目の前に[岩の盾]を作ると、座っていたソファーから跳び退いて身構える。飛び退く前には両端の2人をつき飛ばそうとしたが、すでに2人は僕と同じように動いていたのでそのまま飛び退くことができた。
僕たちが座っていたソファーの前には、黒い短刀を持った黒装束の人が立っていた。暗殺者なのかと思ったが、[危険察知]が軽くしか反応しなかったので殺すつもりではなかったのかなと感じたが…
「すごいのぉ。咄嗟にこの反応をみせるとは…末恐ろしいものを感じるのぉ」
「あなたは…」
どうやら男性であろうその強襲者は、僕の質問には答えず後ずさりで部屋の隅まで移動する。
「3人共に[危険察知]に[隠蔽]というスキルを持っているとは聞いていたが、予想以上にスキルレベルも高いようじゃ。それにさっきの岩はなんじゃ?あんなのも使えるとか、聞いておらんぞまったく…」
僕たちの情報がどこからか漏れている…という事で良いのだろうか?
「さて、そろそろネタ晴らしをせんとならんじゃろう。私は王国の影、いわゆる暗部という奴じゃ。そっそくじゃが国王様からの提案じゃ。お前たち3人、暗部には入らぬか?」
どうやらスカウトだったらしい…
「ほれ、どうなんじゃ?お前たちなら間違いなく幹部候補で報酬も思いのままじゃ。暗部は任務以外は自由じゃしな。アレスは大幹部で女も選り取り見取りになるじゃろな。まあ、本当の身分は隠してもらうがの」
「選り取り見取り…」
ゴクリと喉を鳴らした途端、外殻が全損してダメージを受ける。
「そ、そんなのに興味はありません。そんな事、まったくもってこれっぽっちも考えてませんよ?」
慌ててお断りを入れておく。
「そうですよ。アレスは私たちが一緒なのが一番良いのですし、そうですよねアレス!」
「そうだよ!アレスは私たちにメロメロなんだよ!ねっアレス!」
2人から笑顔で見られているが、外殻が全損で無防備な状態の僕は、空気をよんでうんうんと頭を縦に動かすしか選択肢はなかった。
「ほう。断るというのじゃな?であれば、王命あらば…ワシらはお主達の命を狙う敵となることもあろーうぉお”!」
僕はその男性の言葉を聞き終わる前に[隠蔽]と[疾風]を使い背後に移動すると、首筋に魔短刀を押し当てた。
「王命あらばと言ったのじゃがの…」
僕は、少しも動揺せずにそうつぶやくその男性から離れ、元いた場所へと戻る。
「言っておくが、ワシは暗部の死神と呼ばれ、それなりに上の方にいるんじゃがの。これで開化の儀を受けて1年程度とは…やはり暗部にこぬか?」
「お断りします」
僕は再度そう言うと、その男はため息をつき、いつの間にか手に持っていた帰還札のような物を破りその姿を消した。
転移の札か何かなのだろうか?そう考察していると、黙って見守っていたクライフさんが大きく息をはきつつ目の前の机に突っ伏した。
やはりクライフさんにも、今の件をどの程度知っていたか確認する必要がありそうだ。
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『高貴なる竜』
リーダーはダイダルス。男性冒険者5人組で活動するパーティ。そしてダイダルスは『王国の裁定者』というクランのリーダー、クランマスターでもある。後ろ盾はニガリッソ男爵。
王都の影
いわゆる暗部。王の命令により国の困りごとを秘密裏に処理する者たち。主に盗賊クラスの者達が集まっているが、部署によりその他のクラスもいるようだ。暗部の十傑は死神の他にも通り名で呼ばれている。年に数回任務をこなすが、任務によっては年単位で潜伏することもある。
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