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67 先生!兄が危篤なので暫く旅に出ます!

新年が明け1ヵ月程度が経つ。


私は授業開始前の教室で机の上の手紙を見つめ、怒りからくる体の震えを抑えていた。


『アレスは訳あって家を出た。もうアレスの事は忘れなさい。あと、開化の儀が終わってから家に戻りなさい。お前の婿、この家の当主となるであろう者を見繕っておくから』


そんな内容の手紙を、寮を出る時間ギリギリに受け取り自分の席につき中を開けたのはついさっきの事。

何度手紙で兄ぃのことを聞いても返事はたまにしかこない。


前回は『いずれちゃんと話す。こちらも何かと忙しいから、家には帰ってくる間も惜んで勉学に励みなさい』という返信だった。そして冬休みも帰らずに我慢した結果がこれか…


こんなことなら学院なんて来るんじゃなかった!

そう高らかに叫びたい気分だ。


私はユリア・ウイクエンドとして侯爵家に生まれた。

そして物心付いた時に前世の記憶を思い出す。


私はいわゆる転生者と言うやつなのだろう。

前世は地球と言う星で生まれ日本と言う国で育った普通の女子高生だったはずだ。高校でも漫画ばかり読んでいた帰宅部だった。特にその時は異世界転生物のファンタジー小説が流行っていた。


私は自慢じゃないが可愛いらしく、私を遠巻きに眺める男子生徒からは、本を片手に教室でひっそりとたたずむ清楚で知的な美少女キャラとして見られていたようだ。

あまり親しくはない同級生から、何度かそう言われたので間違いないだろう。


手に持つ本は異世界ハーレムでちょっとエッチな漫画だったけどね。さすがに中が見えないように一番後ろの窓側の席を確保して、うまく隠しながら読んでいたからバレてはいないだろう。


そんな私は18の時、もう少しで卒業というところで男子の一人に告白された。もちろんそれは断ったがその男子がストーカのように付き纏うようになった。

そしてある日の帰り道、私は背中の痛みに悶え倒れ込んだ。


痛みで悶える私が仰向きになった時、誰かが馬乗りになり手に持った包丁のようなもので、私の腹部を刺しているのが見えた。刺されながらもその犯人の顔を見て「ああこいつか」と納得した。

つまらない人生だったと思う私の目には、その男が不気味な笑みを浮かべならが自らの首を切り裂く光景が見えた。


「馬鹿なやつだ…」


私の最後の言葉がそれだった。


そして気づけばユリアと呼ばれ、3歳児という何とも不自由な体に生まれ変わっていた。喋べれば舌足らずな発音で思わず自分で吹き出しそうだったのを覚えている。

私は前世の知識を武器に両親の話に口を挟んだりしてしまい、あっという間に神童と呼ばれてしまう。その結果、不本意ながらアレス兄ぃと引き離され貴族院へと通うことになったのだ。


両親は優しかった。母は美しく強くそして厳しかった。だがそこに優しさも感じる尊敬できる大人だった。父は…昔は強かったのだと自慢するハゲ親父だった。

3人の兄がいたが、上の2人はクソみたいな奴等だった。自分が偉いと勘違いしているようだが、侯爵家としての力はお前の力ではないと言いたい。

そんな中、三男のアレス兄ぃは私にデレデレだった。少し引くぐらいに可愛がってくれた。そして私もショタっ気があることを自覚した。背が小さく可愛い系のアレス兄ぃは、正直タイプだった。


当然私の方が小さいのだが、どうしても前世の記憶で弟のように感じてしまう。私は可愛がられるより可愛がりたいと、前世の記憶を兄ぃに打ち明けた。「面白い話だね!」そう言っていつでも真剣に聞いてくれた。

信じてはくれないようだったが、いつも最後には「面白かったよ」と言って頭を撫でてくれた。本当は撫でられるよりも兄ぃを撫で回したいんだよ私は…


そんな兄ぃもとっくに開化の儀を終わっているはずなのに、まともな返答がこないでモヤモヤを抱えていたところでこの手紙だ…クソ親父はいつか絶対に毟ってやろう。

そう思いながら怒りに震えつつ、背後に控えているお付きのメイドであるセシリーナに確認する。


「セシリは兄ぃのことを知ってた?」

「いえ、私も聞かされておりません」

だよね。セシリが知っているなら絶対に私に報告していたはずだ。やっぱりあのハゲ親父は毟り取る!絶対にだ!


「カロナっち…アレス兄ぃが、家を追い出された」

こめかみをヒクつかせながら、隣の席の親友でありアレス兄ぃの婚約者でもあるカロリーナ・レイッヒにその事を告げる。


そして…


「先生!兄が危篤なので暫く旅に出ます!」

そう告げて教室を出た。


背後からはセシリもついてきている。少しざわつく教室を気にせず飛び出した。

善は急げだ!兄ぃは、ただのアレスになったのだ!ならもう、他人じゃん?あれ?結婚できるじゃん?むしろラッキーじゃん?


「行くわよセシリ!」

「はい!お嬢様!」

私は、セシリと共に侯爵令嬢らしからぬ脚力で王都の北部、平民地区の外れにある小さな教会に向かって走り出した。


それから30分。

途中で息切れしてしまったがなんとか馬車を捕まえて、やってきたのは平民地区の外れの小さな教会。


中に入ると神官様がテーブルにもたれかかり眠っていた。周りには誰もいない。これは丁度良いだろう。

その神官様の肩を軽くたたき、目覚めさせる。


「お休みのところすみません」

「はっ!失礼いたしました!どのような御用で?」

まだ寝ぼけた顔をしながら立ち上がる神官様に「慌てないでくださいね?」とお嬢様スマイルを見せておく。侯爵令嬢の嗜みだ。初対面の印象は良いに越したことはない。


「すでに10才になっています。今日は、開化の儀をして頂きたくやってまいりました」

「開化の儀、ですか?」

戸惑う神官様に、私は笑顔を崩さない。


「はい。できますよね?」

「は、はい!できます!やらせていただきます!」

私が優しく笑顔を見せればみんな言うことを聞いてくれる。神官様の顔が真っ青なのはきっとお疲れなのだろう。


通常は10才になったものを集め4月に開化の儀が行われる。だが実際には10才となった日から開化の儀は行うことができるのだ。だから私はクラスを授かることができる。そう思ってここまでやってきた。


アレス兄ぃを追いかけるなら何かしらのクラスが必要だ。そして私は転生者だ!きっとレアなクラスをゲットだぜ!と思っている。


そして神官様に私がユリア・ウイクエンドと名乗れば、さらに緊張してしまったようだ。「ひぃ!」って何?どうやら神官様は疲れが溜まっているようだ。休息大事だよね?

そして始まる謎の呪文。思わず笑いそうになる。この世界はスキルの発動に呪文なんて要らない。雰囲気づくりに何かを口に出しているんだろうがその光景に笑ってしまう。


「ユリア・ウイクエンド様の能力板(スキルボード)よ、ここに…」


その言葉と共に初めて見る能力板(スキルボード)に心が躍った。


「ユリア・ウイクエンド様は賢者!賢者様を授かりました!すばらしい!早急に中央聖教会に報告しなければ!ユリア様の輝かしいの人生に幸あぐっ!」

「報告は、ダメ絶対!」

「な、何を…」

私は思わず神官様の首をギュっとしていた。


「私は、まだ開化の儀を受けていない。ですよね?」

「は、はい…私は、今日は本当に何もない、平凡な1日を過ごしました」

「ありがとうございます神官様。神官様に幸あれ」

神官様の首元から手を離すとにっこり微笑んだ。


「神官様、こちら、お嬢様からのお布施です。御受け取りを」

そう言ってセシリはバッグから白金貨を1枚手渡した。


こうして、跡を濁さず教会を出ると、能力板(スキルボード)を再度確認する。


――――――

ユリア・ウイクエンド クラス:賢者 Lv1

体力20 魔力40 外殻80

力15 硬10 速20 魔35

――――――

New [鑑定/Lv1/全てを見抜き解析する眼]

New [未知の知/この世の理を解く閃き]

――――――


スキルは[鑑定][未知の知]の二つ。鑑定は当たりだ。多分鑑定を使いまくればスキルレベルも上がるはず!と言うか上がる![未知の知]の効果だろう。この世の全てを理解した感覚になる。

試しに目についた石に向かって[鑑定]を使う。


『道端の石』


消費魔力は5だった。なので5回、追加で使う。


『道端の石』『道端の石』『道端の石』『道端の石』『道端の石』


これで残り魔力は5だ。後はどのぐらいで回復するか…そうか、5時間で全てが回復することを理解する。まずは鑑定のレベルを上げておこう。このスキルだけでもアレス兄ぃを養うことができそうな気がする。


気分を高揚させたまま乗合馬車に乗り、近くにあると言う冒険者ギルドへ移動する。クソ親父に宛てた手紙を殴り書きしてギルドに託す。『クソ親父!タヒね!』と大きく書いた手紙を…


後は兄ぃの足跡を探そう。

きっとすぐに見つかる。[未知の知]がそう告げている…気がする。


------------------------------------------------------------

ユリア・ウイクエンド

ウイクエンド侯爵家の長女。アレスの一つ下の妹で日本からの転生者。クラスは賢者。小さい頃からアレスに可愛がられている。


セシリーナ・ワルツ

ワルツ男爵家の三女。愛称はセシリ。ユリアの専属侍女。

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