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59 それは追々話し合いたいですけどね

「調査依頼、ですか?」

「そう。お願いできないだろうか?」

目の前のクライフさんが爽やかな笑顔と共に頭を下げる。


[絆の心]という新たなスキルを得た翌日、ベイリンの塔にでも行こうかと話をしていたが、念のためと冒険者ギルドに手ごろな素材集めが無いか確認しにきたところ、フニャンソワさんからギルドマスターから呼ばれていることを聞いた。


そしてフニャンソワさんに連れられ、4階まで魔道昇降機にのり部屋へ案内されると、茶菓子と一緒に調査依頼を指名された。


「君たちが王都の魔の森でグリーンドラゴンを退けた、ということは話に聞いているよ」

「死にかけましたけどね」

「それに関連するんだけどね、あの『魔の森』は王都のほかに、このベイリン領とも隣接しているのは知っているよね?」

「まあ、それぐらいは」

そんな話があったなと、つい最近クラウから聞いた情報を思い出す。


「でね、本来グリーンドラゴンは最深層にいるものなんだよ。『魔の森』も異界の一種だからね。各階層ごとに分かれているから、普通は階層を跨いでは移動しないんだ、普通はね」

「たしかに、そう聞いてましたが実際にはグリーンドラゴンは層を超えて来ましたからね」

「それそれ。それなんだよね問題は…」

なんとなく、言いたいことは分かってきたような…


「アレスくんたちにはそれの調査を依頼したいんだ。魔物暴走(スタンピード)の兆候があるのか、それとも何か他の要因があるのか…それを調べてほしいんだよね」

「なんで、僕たちか聞いても良いでしょうか?」

「だって君たち…3人共[隠蔽]と[危険察知]を使えるって、ミューズ会長から聞いてるからね。適任だと思うな?」


僕もクラウも深いため息をついた。

リーゼはきょとんとしていた。


「期間は特に定めないけど、早めだといいな。報酬は内容にもよるけどできれば最深層の様子を見てきてほしい。それだけでも白金貨2枚は保証するよ」

見てくるだけでその報酬は確かに大きい。


王家から100枚も貰っておきながら、魔法のバッグで散財してしまった僕たちの当面の生活費として、多少なりとも稼いでおきたい気持ちはある。


『どうする?』

『いいんじゃない?』

『良いのではないでしょうか。駄目そうならアレスだけで見に行って、帰ってきても良さそうですし?』

ここぞとばかりに[絆の心]を活用してみる。


「じゃあ、一応やってみます」

「助かるよ。詳細は『魔の森』と北西部の『最果ての森』、その間あたりにある北部分所で聞いてくれ。北部分所の詳しい位置はフニャンソワにでも聞いてくれ」

「分かりました」

また暫く『魔の森』に入ることになるのかと、グリーンドラゴンを思い出し少し身震いする。


「あと別件だけど、君たちはそろそろパーティ名決めてくれないかな?名前が無いと色々大変でさ」

「そ、そのうち考えておきます…」

本当に別件だなと思いながらも適当に返事して部屋を出る。


クライフさんからは「早めに頼むよ」と声をかけられつつ下まで戻って行った。

1階に戻ってきた僕たちはフニャンソワさんに北部の分所について確認し、略図とすでに用意されていた依頼書を貰った。


ギルドの分所である北部は、ベイリン子爵様の寄子(よりこ)であるサイロン男爵が管理を任されていると言うが、「少し厄介なので気を付けて」と言っていた。

領地をもたない下位貴族が、他の領地持ちの貴族を寄親(よりおや)にして領地の一部を管理するのは良くあることだ。だがほとんどは領主様の意向を汲んで管理しているはずだから、大丈夫だろうとは思っている。


実際、ウイクエンド領でも男爵や騎士爵の者に小さい集落規模のエリアを任せていたのも知っている。そもそもそんな『小さな集落で将来的にはのんびり暮らす』というのが僕の人生プランだったわけで…


そんなことを思いつつその日は屋台で適当に昼食を済まし宿に戻る。

ベッドに腰掛け調査依頼の話を後回しにして、僕たち3人のパーティー名を考えるための話し合いが始まってしまった。


◆◇◆◇◆


「では『親愛の絆』ということで…」

割と早く決まった僕たちのパーティ名。


話し合い直後にクラウからの提案にリーゼが賛同、僕は「それはちょっと」と抵抗するだけの時間が小一時間ほど過ぎ、最終的に意見を変えない2人にゴリ押しされてしまった。


「まあ2人が気に入っているなら良いけど…これじゃ男は入りづらいよ?」

今のままでも余裕だけど、いずれ回復役とか斥候役も欲しくない?。


「アレスは何言ってるの?」

「男性の冒険者なんて入れませんよ?そして本当は女性冒険者も追加する気もありません。ただ、アレスは多分まだまだ女性を増やしそうです。それは追々話し合いたいところですけどね」

2人の冷たい目線が痛い。


いや、僕も2人がいれば良いんだ。そう思うことにした。

僕が一人で何役もこなせるぐらい強く成れば良い。そういう事なのだろう。


こうして、明日にでもギルドにパーティ名を伝えてから北部へ赴くことを決めると、いつもの様に高らかに歌って眠るルーチンをこなした。


翌日、宿の食堂で朝食のついでに数日分の食事を頼み、魔法のバッグへと収納する。

そして乗合馬車で北部へ向かった。


折角良い部屋を1月分借りたというのに、たった数日で離れることになったのが本当に悔やまれる。最低限その分は魔の森でしっかり稼いでこなきゃと意気込む3人だった。


北部分所でさらなる厄介事に巻き込まれることになることも知らずに…


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ベイリン領・冒険者ギルト・北部分所

『魔の森』と北西部の『最果ての森』、その間あたりにあるギルドの出張所。買取や近くの依頼管理、簡易宿泊施設などを完備。


ベイリン子爵領・北部

両サイドを森に挟まれている北部はベイリン子爵の寄子(よりこ)であるサイロン男爵が管理を任されている。北部を海に面した漁場と森からの恵みを受け、冒険者と冒険者を相手に商売をしている商人たちで街は賑やかだ。


領地なし?領地あり?王国における貴族制度について

ユルモンド王国では、国王陛下の陞爵により貴族となり直轄する領土から一定の金品を納税するが、その金額は王族が決めることができる。国に貢献することで平民が叙爵で貴族となったり、さらに陞爵で爵位を上げたりする。領地を持たない貴族は基本、王家への納税義務はない。居住する領地ごとにその領主へ税を納める制度となっている。

土地については国に不利益を与えたりすることで降格となったり、領地の割譲や没収、さらには爵位を剥奪されたりする。内乱が多かった過去に細かく分かれていた領土は今の形となったが、適当な領地が無かったり、領地を持つのを嫌った貴族たちがいたりなど様々な理由で男爵が広い領地をもったり、領地を持たない子爵や伯爵がいたりと、歪な構成になっている。

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