50 アレスはどっちと付き合ってるの?それとも両方?
馬車を降りた皇太子殿下御一行。
僕は魔の森を見ながら少しだけ緊張していた。
少しの間、体をほぐして狩りの準備を整える。
そしてディークさんの合図と共に、遂にパーティでの狩りが始まった。
馬車内で緊張しつつも役割分担については話し合っていた。殿下とリーゼが前衛、クラウは後衛、そして僕は遊撃として殿下のすぐそばで、自由に動けるようという布陣でまずは挑む予定であった。
実際に魔の森の外周に入ると、両サイドをがっちりと聖騎士隊に守られてしまう。その光景に面食らってしまうが、このままでは狩りにならない。
現に襲い掛かってくるゴブリンたちは、一匹たりともこちらへとたどり着くことは無い。思わず立ち尽くしてしまう。
「おい!いい加減にしろ!」
皇太子殿下が冷たいトーンでそう言い放つ。騎士たちはその声にビクリと肩を震わせる。少し離れて殿を務めていたマルチスさんはため息をついている。僕たちは、黙って成り行きを見守っている。
隊列を抜けて殿下の前まで走ってきたディークさんは、「どういたしました!」と訳も分からず汗をかく。
「どうしたもこうしたも無い!これじゃ僕たちの出番が無いではないか!」
「しかし…私は殿下の身を案じて…」
僕はやっぱり関わりたくないので黙ってい見ている。
「このまま邪魔するなら、全員帰ってもらうからね!」
「は、はいー!」
急いで戻ったディークさんの指示により、騎士たちに少し離れ後ろからいつでも飛び出せるように待機をするようだ。
「はぁ」
「大変ですね」
ため息をつく殿下に一応声をかけておく。
殿下からは「ホントにね」と返っていたので苦笑いするしかなかった。
そこからやっと本格的な狩りが始まった。
僕が大っぴらに使えるものは、[隠密][危険察知][短刀術]になっている。盗賊の基本スキルだ。[罠解除]も持っていることになっているが…迷宮や塔じゃなくて良かった。使う機会は無いだろう。
リーゼとクラウは僕から[譲渡]されたもの以外は大丈夫なのだが、それほど見た目で分かるスキルは無いので大丈夫だろう。
外周については問題なく狩りができる。
あまり出しゃばり過ぎないように合わせて狩ってゆく。
殿下が途中で「浅い層まで入ってみないか?」と言っていたが、今日のところはと外周で我慢してもらった。一日で連携もそれなりに旨く行くようになり、僕もリーゼとクラウもたどたどしいながらエドと呼べるようになった。
僕が最初にそう呼ぶと、殿下は「ぷはは」と笑っていた。そんなに可笑しな呼び方をしてはいないと思うのに…僕だって侯爵家のお坊ちゃんだったんだけどな。すっかり忘れていたけど。
今日はいつもに比べるとそれほど数を狩れなかったが、クラウが狩った森ゴブリンからスキル玉が出た。殿下が狩った分からはスキル玉が出ないハズだから当然少ないのは分かっていたが、1つだけは少し寂しい。
休憩時間にその[危険察知]をリーゼにこっそり[譲渡]して、[危険察知/Lv2]にしておいた。その際にもやっぱり声を漏らしたリーゼに殿下が気付き、「仲が良いね」と言われ照れ笑いをしていたリーゼ。僕は苦笑いだったけど。
そして夜、騎士や侍女たちが用意した夕食を終え、僕たちのテントに一緒に入ろうとした殿下に、ディークさんがまた文句をつけてきた。
「なりません!殿下がこのようなそんな狭っ苦しいボロテントで夜を明かすなど…しかも下賤な者たちと一緒になんて…」
「うるさいよ!お前、もう帰ったら?」
「うぐっ…」
殿下に冷たい声をかけられまた汗をかくディークさん。もうだいぶ涼しくなってるんだけどね。
僕は「まあまあ」と殿下を宥めるように手を取り、テントへと促している間にディークさんは戻って行った。助けたはずの僕を思いっきり睨んでたけど…
責任者が不在になれば面倒ごとも多くなるから無難に立ち回りたい。マルチスさんが居るから良いのかな?とも思ったけれど、可能ならあまり波風は立てないようにしておきたい。逆恨み怖い。
毛布に潜り込み、僕の左にはリーゼとクラウ、右には殿下が寝ころんでいる。「こういうのも良いよね!冒険者って感じがするよ!」と嬉しそうにあまり立派ではない毛布にくるまる殿下。
「エド、失礼ながら冒険者なら食事の支度をしたり、最悪、固いパンに齧りついて空腹を我慢することもありますよ?」
「そうなんだね!一度その固いパンを体験してみたいな」
先輩冒険者として苦言を呈したつもりだが、嬉しそうにそう返されてしまったので、一度本当に固いパンを体験してもらおうかとも思ったが、またディークさんに睨まれそうだなと思った。
それから、当たり障りのない今までの冒険譚を話しながら夜も更けてゆく。
残念ながら今日は歌うことはできないので2人は不満そうだったが、今日はリーゼが僕側の方に寝て僕の顔を眺めている。
明日がクラウがと言うローテーションになるようだ。いやーモテる男はつらいなーとか勘違いはしないけどね。多分挟まれた方が暖かいからなんだろう。少なくとも肌を付けても許されるぐらいには親愛度は高いのだろうけど。
「ねえ、アレスはどっちと付き合ってるの?それとも両方?」
「エド?馬鹿なこと言ってないで早く寝ないと、明日に響くよ?」
何を言ってるんだ殿下は…
「こうやって良く一緒に寝てたりするの?」
「まあ、冒険者だからね」
僕たち3人の関係が気になるような殿下から、ちょくちょくこんな話をふってくるので適当に返しておく。気付けば眠り、2日目の朝を迎えていた。
あまり眠れた気がしなかった。
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ユルモンド王国の派閥について
現在の王国は、国王陛下と第2皇子殿下を中心とする現状維持の保守派と、皇太子殿下を中心とした新しい王族・貴族の在り方を模索する改革派、皇后殿下、皇女殿下を中心にどっちつかずの中立派に分かれている。
マルチス・レコマルド大隊長は改革派、ディーク・ダイライエ第一聖騎士隊隊長は中立派になっている。
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