レクイエム(前編)
「僕が助け出せる子供は、君が最後になりそうだよ…。」
多くの人々が眠るバーネッティ市の墓場。
黒いフードコートをかぶり、大鎌を持った青年はかすれたような小声で言った。
まだ20代前半といった若さだろうか。
茶色い髪が青年の鼻までを覆い隠している。
「どういう意味?」
言葉を返した少年は、緑に近い青色の髪にオレンジ色の瞳。
まだ小学生にも上がらない歳に見える。
目を大きく開き、まばたきを何度もしながら青年を見つめている。
「…いや、他愛もない独り言だよ。ただ…ちょっと吐き出したくなってね。」
「………?」
「幼い君が知るには、まだ早すぎる。君は何も気にせず、今まで通り生きていきなさい。」
「あっ…」
フードコートの青年は、少年の額を人差し指でトンと押す。
すると。
フラッ…
トサッ…
魔法にかけられたかのように、少年の体は簡単に地面に落ちた。
「これでよし…かな。あとは…」
青年は、灰色の雲に覆われた空を見上げる。
ゴロゴロ…
遠くから雷の轟きが聞こえてくる。
「ふっ…まだまだ助け足りないけど、これも僕の運命だろうね。それに…」
今度は微笑み、少年を見下ろす。
「最後に君を助けられたから、良しとしようかな、アルフレッド・フィアラ君。」
青年は、少年の髪を優しく数回なでた後、真剣な表情で遠くを見つめる。
そして…
「さあ…人の命を管理する神達よ。少年の寿命を伸ばした我に罰を与え、少年をこれからも生かし続けよ!」
誰にともなく叫んだ。
と、次の瞬間!
ガーン!!
凄まじい轟音と共に、青年に稲妻が落ちた。
本当に一瞬のことだった。
気付けば、フードコートの青年は跡形も無く消えており…
あとには、青年が付けていたと思われる、シルバーのドクロのリングが残っていた…。
「閻魔…。私は、もうすぐ答えを見つけられそうだ。」
「また呼び捨て…わしはすねてしまうぞ、アルフレッド・フィアラ…。」
「…閻魔、様。」
アルフは、嫌々ながらといった風に、視線をそむけて付け加えた。
「嫌そうじゃな、こら。…答えが見つかりそう、か。ならば、何かしらの覚悟が生まれたのではないか?」
「………」
「恐れを抱いたのかね?わしでさえも恐れないおまえが。」
閻魔は、からかうような調子でアルフに聞いた。
「恐れではない…。ただ、今抱くのは世の不条理さに対する怒りだけだ。静かな怒り…。」
ギュッと、アルフは利き手の拳を握る。
「怒ったところで、何も変わりはせぬぞ?」
「わかっている…。」
「今のおまえにできることは、残された時間を有効に悔いなく使うことじゃ。こんなところで、わしと雑談をする暇があったら…、仕事に行くがよい。」
そう冷たく言い放つと、閻魔は作業場であるマグマの底に戻っていった。
(残された時間、か…。)
コポコポ…
煮えたぎるマグマの音が、妙にアルフの耳に響いた…。
カーン…
カーン…
カーン…
ミサの時間を知らせる鐘が鳴り響いていた。
過疎化してしまった地域にある、古びたちっぽけな教会。
その教会の前には、無数の人々が眠る墓場があった。
どの墓場にも、花束やお供え物が供えられている。
カーン…
カーン…
カーーン………。
教会の鐘が止んだちょうどその時だった。
一人の女性が墓場を訪れた。
長い黒髪をバレッタで止め、白いワンピースを着こなしている。
瞳は、紫色。
整った顔立ちの美人だが、どこか悲しげな表情だった。
ザッ…
ザッ…
女性は、中央付近の墓場に、菊の花束をそっと供えた。
そして、軽やかに歌い出した。
「時は…早く過ぎ去り…」
「絆は…脆く崩れる…」
そう…消えゆく死神に贈る歌…レクイエムを…。
神力庵。
「遂に始まるようじゃのう…。覚悟はできているのか、アルフ…」
誰にともなく呟く千爺の姿があった。
「遂に始まる、か…。」
庵の裏庭で、シークが繰り返すように呟く。
チャリ…
数日前、アルフに預かるよう頼まれたシルバーのドクロのリングを見つめながら…。
「兄貴!聞きたいことあるんすけど…って、取り込み中っすか?」
「いや…構わないが。」
広場に居た死神との話を中断し、リアゼの方に顔を向けるアルフ。
「おやおや、何やら大事な話が始まるようで…。私は失礼しますよ、フィアラ君。くれぐれも気を付けなさい。」
「はい…ハイヤさんも気を付けて。」
バサッ…
バサッ…
アルフと話していた死神は、下界へと飛び去っていった。
アルフに一礼をして。
「今の爺さん…ハイヤさんって言うんすか。60代ぐらいに見えたんすけど…随分派手っすね。」
「そうか?」
「そうっす。灰色のパーマ髪に、黄色のニット帽…右手の指全部に指輪…銀色の杖…。あんな爺さん、初めて見たっす…。」
驚きを隠せず、目をパチクリさせているリアゼ。
「…で、何の話をしてたんすか?“気を付けなさい”っつうことは、ただ事じゃないっすよね…。」
「………ハイヤさんは、天界一の早耳な人でね。私の名前が黙約の最後のページに載せられていたことを知らせに来てくれたのだよ。」
「へー…そうなんっすか…って、えっ!?」
リアゼは、驚きの声を上げた。
「兄貴…今、何って…?俺の聞き間違いなら、嬉しいんすけど…」
「………」
アルフは、リアゼの質問に無言という形で答える。
「兄貴…。」
「それは、私が気を付ければどうにかなることだ。だから、気にしなくてよい。しかし…もう一つの情報は話しておこう。リアゼ、おまえにも関係あることだ。そして、イリアにも………んっ?どうかしたか?」
アルフは怪訝そうに眉を潜めて聞いた。
リアゼが急にキョロキョロと辺りを見回したからである。
「あ、いえ…。噂したら、いつもピンク娘が話に入ってくるっすから、今日もまた突然出てくるかも、と警戒しているだけっす。」
「なるほど。」
アルフは、納得したように言った。
数秒見回して、イリアの姿を確認しなかったので、リアゼはほっと胸をなで下ろす。
「仕事行ってるみたいっすね!ピンク娘は、ひょいと出てくるから、心臓に悪い…」
「まーたなんか悪口言ってるでしょ!!」
「のわっ!?ピンク娘!!」
噂をすれば影。イリアがストッと二人の前に降り立った。
「毎度のことながら…イリアには驚かされるな…。」
見た目には驚いているとはわからないが、アルフの心臓はドキドキと早鐘のように鳴っていた。
…無論、恋のドキドキではない。
「そっかな?いやー、あたしにも関係ある話って聞いたからっ!…で、どんな話?」
イリアは全く気にせず、マイペースに言った。
「…レクイエムが下界で歌われたのだよ。」
「えっ…それってもしかして…」
「そういうことさ。ついに…始まるのだよ。」
「な、何が始まるんすか…?」
リアゼだけが状況を飲み込めていないようで、不思議そうな顔をしていた。
イリアが意外そうに顔をしかめる。
「あんた、知らないの?“天界マニュアル”50ページぐらいに書いてたのに…。レクイエムが下界で歌われた時は…」
「天界戦争が始まる。」
「シーク…」
話に乱入してきたのは、眉間に深いシワを寄せたシークだった。
「天界戦争…?」
リアゼが繰り返す。
「横入り悪いが、レクイエムと聞いて、話に入らずには居られなくなったもんだからな…。天界戦争というのは、平たく言やあ、天使と神、悪魔と死神。4つの種族の戦争だ。」
「それとレクイエムがどう関係あるんすか?」
「…レクイエムを下界で歌っている女性は、レクイエムの作者の彼女だったからさ。」
今度はアルフが答える。
「うーん…?」
「つーまーり!その人は、下界に居るけど天界の予言者ってこと!ここまで言えば、あんたでもわかるよね?」
「その見下した言い方はかなりむかつくぜ…。」
リアゼは、右斜め方向に目だけ向けてボソッと呟く。
「なーんか言った?」
「べ、別に。」
イリアに感づかれ、慌てて誤魔化す。
シークが口を開く。
「予言者である彼女の名前はルティーナ・プルリエ。ルティーナは、天界から必要とされていたが、頑なに断り続けていた。自分は、寿命まで下界で生きたい、と。その代わりに、天界戦争が起こることを予知した時は、レクイエムを歌って知らせると約束し、守り続けている。」
「へえ…律儀っすね、ルティーナって人。」
「ま、彼女の話は余談として置いておいて…問題は天界戦争だ。恐らく、二、三日の内に始まるだろう。」
「そうだな。」
「始まっちゃうよね…」
シークの断言に、アルフとイリアが真剣味を帯びた口調で同調する。
「そういうことなら…早速、鎌の手入れするっす。」
ギュッ…
リアゼは、鎌を強く握りしめ、高々と持ち上げる。
「んじゃ、邪魔したな、三人共!俺は、爺さんの所で茶でも一服しながら、話してくる。」
バサッ…
「じゃあねー、シークー!あたしは…、今の内に買い物してこよっと♪戦争始まったら、できなくなっちゃうもんねー。」
バサッ…
シークとイリアが去り、広場にはアルフとリアゼだけが残っていた。
「兄貴…、天界戦争って、何のためにやるんすか?」
リアゼがぽつりと聞いた。
アルフは、目だけをリアゼに向けた。
「…最高神力者を決めるためさ。」
「それって…今は千爺っすよね。千爺も参加するんすか?」
「いや…戦争には参加しない。参加してしまえば、千爺が勝つのは目に見えているからな。」
「あ、それもそうっすよね…。」
リアゼは、変なこと聞いてすみませんと、ぺこっと頭を下げる。
「じゃあ、兄貴?神じゃなくて、悪魔とか天使でも最高神力者になれるってことっすか?」
「そういうことだ。戦争は、他の3つの種族が3分の2の人数を失うまで終わらない…。」
「そんなに、っすか…。」
サー…
生温かい風が流れる。
「勝った種族には、虹色に光り輝く水晶が授けられる。その水晶に映った者こそ、最高神力者なのだよ。」
「そのために、戦うんすか…。なんか…複雑な気持ちっすね。」
リアゼは、参加は自由なんすか、と付け加えるように聞いた。
「…強制参加だ。種族ごとの戦争だからな。」
「…そうっすか。」
リアゼはもう何も聞かなかった。
2日後。11時36分。
カンカンカンカーン!
鐘を打つような音が天界に数回響いた。
そして、
「天界戦争の始まりだー!!」
どこからか、そんな知らせの声が聞こえてきた。
その瞬間。
バサバサバサバサッ!!
無数の羽音が聞こえてきた。
それも10や20ではない。
天界のありとあらゆる所から、何千という羽音だ。
その中には、アルフやイリア、リアゼにシーク、エマ…も含まれていたことは言うまでもない。
「あーら、かわいい死神のお嬢ちゃん?私のために消えてくれる?」
パシュ!
クリーム色の淡い光を帯びた矢が放たれる。
サッ…
イリアは、このくらい余裕といった微笑の表情で交わす。
「だーれが、あんたみたいなおばさん天使のために消えるっていうのよっ?」
「おば…!?…もう許さないわよ!!」
「べー、だ♪悔しかったら、当ててみればー?」
パシュパシュ!
今度は一気に3本の矢が放たれる。
カンカーン!
二本にした鎌で弾き返すイリア。
「じゃ、次はイーリアちゃんの番っ!」
「余裕かましてると…足元すくわれるわよっ!!」
パシュパシュ!!
カカン!!
矢と鎌の攻防戦が数回行われた後、イリアは天使に向き直る。
「飛んでるから、関係なーいもんねーだ♪そ・れ・に…」
スタッカートで言葉を切って、一旦間を置く。
パシュ!!
カンカン!!
その間も天使の攻撃は止まない。
「あーんたみたいな下級おばさん天使には、イーリアちゃんは倒せませーん♪」
「な、何ですって!?」
「ふふ…消えちゃえ♪」
「きゃっ!?」
ドゴーン!!
束の間のできごとである。
鎌から放たれた青い菱形の光の筋。
それが矢を射ろうとする一瞬の隙に、天使の胸部に直撃したのである。
あまりの速さに、天使は防御する術もなく、あえなくその技に倒れた。
「ま、あたしを襲った不運さをあの世で嘆き…はここだから無理だね…。無の世界で嘆いておいでよ♪」
ヒュン!
シュウウ…
イリアは高速でその場を離れた。
パラパラ…
敗者の天使は、白い粒子となり風に流され…消えた。
ヒュッ!
ヒュンヒュン!
悪魔は、さすまたのような物で、執拗にシークを狙う。
「俺様に会ったのが運の尽き!消えな、下郎死神共!」
「下郎か…。それは言い過ぎじゃないのか?」
カン!
シークは、鎌の刃ではなく柄で攻撃を受け止めている。
「ひゃはは!そろそろくたばっちまいなっ!」
シュウウ…
パシュウウ!!
血走った目をかっと見開き、悪魔は黒い閃光を放つ。
「おわっと!…てっ。」
ヒュッ!
パシッ!
交わすのが少し遅くなり、閃光がシークの左肩をかすめる。
ポタポタと鮮血が流れ落ちていく…。
「…っ…はは、しくじっちまったな…。」
シークは、右手で左肩を押さえる。
口元と目の歪み具合から、その痛さのほどがうかがえる。
「泣いて土下座すりゃ、この寛大なテックル様は見逃してやらんこともないぞ?」
悪魔は勝ち誇った表情で、シークにさすまたを向けて見下ろしている。
「泣いて土下座、ねえ…。俺には似合わねえわな。」
「ならば、そのくだらないプライドを呪いながら消えろっ!!」
バシュ!!
悪魔は言葉と同時に、黒い閃光を放つ。
ヒョイ…
今度は、軽々と交わすシーク。
「なっ…!?」
「…というわけだから、悪いが勝たせてもらうな。」
シュッ…
イタズラが成功した時の子供のような笑みを浮かべ、シークは悪魔の前に瞬間移動した。
「ちっ…!」
悪魔は舌打ちし、体をのけぞらせる。
「言い忘れたが…」
チャキ…
鎌をかまえるシーク。
「俺の攻撃は、後からくるぜ?」
「くっ…ぐわあああ!!」
シャシャシャ!
ズシャ!!
全身に深い切り傷を負い、崩れ落ち動かなくなる悪魔。
出血は、雲を赤く染める。
「ど…いう…と…だ………?」
「さあねえ?種明かししないのが、マジシャンのルールだからな。はっはっは…。」
シュウウ…
シークの空笑い声を聞きながら、悪魔は無の世界へと誘われ…
やがて、その存在を消した。
「ふう…。やられるフリも楽じゃないってやつだな。」
「さすが、名売れの元マジシャン。見事だよ。」
バサッ…
バサッ…。
そう言いながら、シークの隣に降り立ったのは、エマだった。
「いや、どちらかといったら、ペテン師に近いかな、シークは。」
「自問自答かよ?それに、ペテン師は無いだろ。」
「ふふ…。シークの鎌は、“後斬り”ができるタイプだから、ペテンみたいなものだと自分は思うけど?」
「“後斬り”…。ま、ペテンと言われりゃ、否定はできねえわな。」
違いねえな、と苦笑するシーク。
「和んでる暇は無さそうだね…。行こうか。」
エマがそう言ったわけは、バサッバサッという羽音が聞こえてきたからだ。
「おうよ。かなりの人数のお出ましのようだ。手伝ってくれると有り難い話だがな。」
「そんなに横目で見なくても、乗りかかった船。手伝うよ。」
「サンキュー。じゃ、行くぜ?」
バサッ…
シークは羽音のする方に向かい、飛び立つ。
「それは、自分が先に言ったセリフ。真似するなよな!」
バサッバサッ…
笑顔で毒づき、エマもシークの後に付いて、飛び立っていった…。
「この数はさすがにきついっすかね…兄貴?」
「確かに…一人の場合ならばな…。」
リアゼとアルフは、背中合わせになり、戦う構えをしていた。
「キヒヒヒ…」
「クフフフ…」
「カカカカ…」
二人は50は越えるであろう数の悪魔に囲まれていた。
皆、さすまたを手に獲物を狙うような怪しい目つきで、二人を見ている。
中には、ペロと舌なめずりしている者もいた。
「二人も発見。それも弱そうな青年死神。」
「この人数なら余裕。それ、かかれ!」
金髪の悪魔が指示すると…
バサバサッ!!
シャシャシャ!!
悪魔達は、さすまたでアルフとリアゼに一斉攻撃にかかった。
「二人なら、余裕っすね…てりゃ!!」
ヒュッ!
ヒュッヒュッ!!
ヒュッヒュッヒュン!!
リアゼは、悪魔の輪からすり抜け、小鎌を投げつける。
スパンパン!!
グサッサッサッ!!
「くはっ!!」
「っあああ!!」
小鎌は、狙いたがわず数体の悪魔の体を切り裂いたり、刺したりする。
中年の悪魔は、眉を左右不平等に動かし、少し怯んだ表情を見せる。
「ちっ…そっちは強いようだ…。もう一人を狙え!!」
「はいよ、頭領!!消えな、死神!!」
バシュ!!
緑髪の悪魔が、アルフに向けて黒い閃光を放つ。
サッ…
アルフは、わざと鎌に閃光を当てる。
シュウウ…
閃光は、鎌に吸い込まれるようにして消えた。
「へっ!?そんなのあ…」
「有りだ。荒れ狂うつむじ風!」
ヒュウウウ!!
スパン!!
シュシュッ!!
アルフの鎌から解き放れた豪風は…
「ひえええっ!?」
「くっ…ああああ…」
悪魔達の体を傷つけていく。
切り刻み、取り囲み…
しかし、いずれも致命傷は与えない。
「まだまだいくっす!!」
ヒュッヒュッ!!
スパンスパン!
「恨みはないが…降りかかる火の粉は払うまでさ。」
ゴウウウ…!
ザシュ!スパン!
…………。
三分もかからず、全ての悪魔達は雲の地面に伏し、動けなくなってしまった。
「ふう…ちょっと疲れたっすね。もうこれで、何人目っすかね…?」
ポフッ…。
リアゼが雲に座り込んで聞いて、
「さあな…。」
端的に応えを返し、同じように座り込むアルフ。
また、ポフッと雲が揺れた。
いつでも戦えるように、鎌の柄が肩にかかるよう持っている。
「まだどの種族も三分の二以上減っていないんすか…。喜ぶべきなんすかね…それとも…」
「………わからないが、休憩している暇はあまり無いようだな。行くか、リアゼ。」
アルフは、すくっと立ち上がりバサッと翼を広げる。
「そうみたいっすね…。落ち着いたら、続きを話すっす!」
バサッ…
リアゼも立ち上がり、すぐにでも飛び立てる準備をする。
…襠がある付近から、悲鳴と狂気的な笑い声が風にのり、二人の耳に届いてくる。
二人の死神は、その方向を向き…
バサッ…
バサッバサッ…!
羽音を立てながら、横並びで飛び立つのだった。
それぞれの決心を胸に…。
戦争開始から16時間20分経過…。
キィィィーン…!!
天界全土に響き渡るほどの大音量で、アナウンスが流れる。
「途中経過を報告いたしまーす。天使は2分の1、悪魔は3分の2、神は5分の4、死神は3分の2となっておりまーす!!皆さん、他の種族を絶やすまで頑張ってくださーい!」
中年男性の声だった。
時々、笑い声を入り混じらせ、戦争を楽しんでいるかのようだった。
「悪魔と同数っすね…。これじゃ、いつ戦争が終わるのか、見当がつかないっす。」
ヒュッヒュッ!
「ぐあっ!?」
小鎌の攻撃の手は休めず、リアゼがため息混じりに言った。
「確かにそうだな…」
ヒュウウウ…
パシッ!ズサッ!!
「うわあああ…」
同様に大鎌での攻撃は止めないまま、アルフが応えた。
「他の種族を滅ぼして、最高の種族と敬愛される…。なんか…あまり喜べないっすよね。」
ヒュッヒュッ!
「………」
ゴウウウ…!!
パシッ!
リアゼは、手元に戻ってきた小鎌を掴み、服の内ポケットにしまう。
「ああ、実に悲しく虚しいことだ。」
ゴウウウ…
トンッ…
大鎌を肩に立てかけるアルフ。
………。
いつの間にか、辺り一帯シーンとしていた。
アルフとリアゼ以外でその区域にいる者は、皆倒れシュウウ…という音を出しながら、粒子になっていったのだ。
「あ!兄貴、関係ない話なんすけど、一つ聞いていいっすか?」
リアゼが思い立ったように、唐突に言った。
「聞きたいこと?」
「はいっす。兄貴…人間だった頃、夢ってありました?」
「夢、か…。」
アルフは、遠い過去を思い出そうと、しばしの瞑想に入る。
もちろん、いつ襲われるかわからないので、耳を研ぎ澄まし気は緩めず。
「因みに俺は………獣医になりたかったっす。似合わないかもしれないっすけど。」
てへへと、照れ臭そうに笑いながら頬を染めるリアゼ。
アルフは、瞑想を止めリアゼの方を向く。
「似合わないことはないと思うが?それに、立派な職業だ。」
「そ、そうっすか?恐縮っすね…。でも、そう言われると嬉しいっす!兄貴は…?」
「私は………っ!?伏せろ、リアゼ!!」
ザッ!
「わっ!?」
アルフは言い止めて、リアゼを庇うようにして伏せる。
ヒュッ!
空を斬るような鋭い音が、彼らのすぐ上を通過した。
「…油断していると思ったが、なかなかできるようだね。」
どこからかそんな声がした。
バッ!
素早くリアゼから離れ、声の主を探すようにキョロキョロするアルフ。
「な、何っすか…?今の…」
「そこか…?」
ゴウウウ…!!
アルフの鎌から放たれた台風のような風が、リアゼの言葉をかき消す。
バシッ!
確かに手応えがあったような音がした。
しかし、声の主は姿を現さない。
「どこを狙ってる?私はこちらだ。」
また声がした。
「!?兄貴、後ろっす!!」
「なっ…っ…!?」
ガシッ!
リアゼの叫び声は、少し遅かった。
アルフは、姿の見えない何者かに捕らえられていた。
クスクス笑いながら、姿を現した者は、女性の神だった。
整った顔立ち、長いまつげを備えた瞳。
クリーム色の長い杖。
「メルディ…か…?」
アルフが苦しげにようやくそれだけ呟いた。
ギリギリ締め上げられているため、目がかすみ、よくは見えない。
しかし、彼はメルディに似てると感じたのだ。
「へっ?知り合…」
「…気安く呼ばないで!!」
ギリッ…
「くっ…っ…」
極限まできつく締め上げられ、アルフの意識が薄らいでいく。
メルディと思われる神と、リアゼの姿が二重に見えていた。
「兄貴を離せっ!」
ヒュッヒュッ!
また弾かれるとわかっていつつも、リアゼは紐のような物に向かって、鎌を投げる。
「うるさい坊やね…」
シュパーン!
「えっ…そんなまさか…!?」
リアゼは目を見張った。
女性の神は、鎌を弾くどころか杖で半分に斬ったからである。
トンッ…
半分になった鎌は、白い雲の上に落ちた。
「全く…血の気の多い坊やは、こうよ。」
スッ…
神は、杖を持ち上げた。
(な、何か来るっすね…。)
リアゼは、サッと小鎌を取り出し、攻撃に備える。
本当は、アルフを一刻も早く助けたいのだが、神を倒さない限り無理だと悟ったからだ。
「光の裁き!」
叫ぶと同時に、神の持つ杖からオレンジ色の光が溢れ出し…
バシュシュシュ!
それは、槍となりリアゼを襲う。
「くっ…小鎌乱舞!」
リアゼが言うと、数十本の小鎌は彼の周りを竜巻のようにくるくる回り覆った。
カカン!
それにより、いくつかの槍を弾き返す。
しかし…
ドスッ!
「………っつ!?」
一本だけその包囲から逃れた槍があった。
そしてそれは、たった今、リアゼの脇腹に深く刺さったのだ。
ポタ…
ポタポタ…
脇腹からゆっくりと流れ落ち出す鮮血。
「兄…貴…」
ドサッ!!
痛みと失血により、雲に伏し意識を失うリアゼ。
神はその様を見届け、手間かける坊やね、と愚痴りながら、アルフに向き直る。
今や、アルフも完全に意識を失い、固く目を閉じていた。
「気を失ったようね…あら?」
アルフの肩の刻印を、神は顔を近付けて間近で見る。
「これは…!驚いたわ…まさかコインがこんなところに居るなんて!!」
「おっ!お手柄だな、メルディアン・イーグル。」
「ハッシェ…。」
ハッシェと呼ばれた神は、アルフに近づき、ひょいと肩に担ぐ。
「じゃ、さっさとコインを連れてこうぜ!…あの場所にな。」
「ええ…そうね。」
ハッシェに言葉を返しながら、メルディアンはリアゼの方をちらっと見た。
長いまつげでまぶたが覆われ、体はピクリとも動いていない。
鮮血は止まることを知らず、流れ続けている。
「………」
メルディアンは、一瞬表情を曇らせたが、すぐに普通の表情になる。
「ん?そいつが何か気になるのか?」
飛び立ち、徐々にその場を後にしながら、ハッシェが訊いた。
「いえ…何でもないわ。」
パサッ…
メルディアンも、白い翼を羽ばたかせ、ハッシェの後に続き飛び去っていった。
後に残ったのは、傷を負い雲に倒れたリアゼのみだった…。
次の話で最後…。
読んで下さった皆様ありがとう!!
最後までごゆっくりお楽しみ下さいませ(・ω・)/




