8 ニチョウチョ(日ちょうちょ)クラブ
愛子の家はお店をやっています。
小さなコンビニのようなお店でなんでも売っていますが、おそう菜が特においしいという評判です。地元の人だけではなく、山に行く人々もよくお弁当を買いに寄ります。
日曜日の朝、めぐみ先生がその店に来ました。
先生は日曜には山に行くので、おにぎりやソーセージ、チョコレートなどを買うためです。
その日はレジに父親がいなくて、愛子が店番をしていました。
「いらっしゃいませ」
愛子はこの仕事に慣れているので、言葉もきれいです。
「愛子ちゃん、えらいわね」
愛子は、お母さんがおそう菜作りで忙しく、お父さんが出かけてしまったと言いました。
「父は朝早くからチョウチョを見に行きました」
「11月なのに、どんなチョウチョ?」
めぐみ先生の目がきらきらしてきて、「それって、アサキマダラ?」とききました。
「たぶん、そのチョウチョだったと思います」
愛子は先生がよくチョウチョの名前を知っているので、驚きました。
「先生、アサキマダラを知っているのですか」
「少しね。アサキマダラは旅するちょうちよって呼ばれていて、どこからやって来るのかわかっていないのよ。ヒマラヤから飛んでくるという説もある不思議なチョウチョ。チョウチョって、ようやく成虫になっても、すぐに死んでしまうけれど、アサキマダラは何ヶ月も、時には何年も生きるらしいわよ」と先生はうれしそうです。
「めぐみ先生はチョウチョが好きのですね」
「そうなのよ」
「父はチョウチョの集団が見つかったとクラブの人から連絡があって、出かけました」
「それは、どの山ですか?」
この周辺の山といえば、一番高い青ケ岳、平家の落人が住み始めたという平家山、まるっこいたぬき山があります。
「平家山の上のほうだと思います」
先生はいつもは青ヶ岳ですが、私も平家山に行ってみようかなと思い、「おお、ラッキー」という顔をしました。
めぐみ先生が店を出ようとすると、壁の掲示板が目にはいりました。
「日てふてふクラブ」のお知らせ欄に、「平家山でアサキ発見。お宮に7時集合」と書いてありました。
「日てふてふ(にちょうちょ)クラブって何ですか?」
めぐみ先生が興味しんしんな顔をして、レジに戻ってきました。
「月に一度、日ように、チョウチョを見に行くクラブです。だから、ニチョウチョクラブというんです」
「ああ、そうなのね。とてもいい名前」
「父が喜びます。先生、ちょっと待っていて」
「いいわよ」
めぐみ先生は待ちながら、「音楽のニ長調が、明るくてパワフルな感じ」だと聞いたことがあったのを思い出しました。クラブの名前をつけた人は、音楽も好きな人かしらと思いました。
そ愛子は家の中からフォトフレームをもってきて、写真を見せました。
「これがにチョウチョクラブのメンバーで、これが父」と指をさしました。
ほかに、15人ほどの男性が写っていました。
その時、写真を見ていた先生が、別の世界に行ってしまったかのように、急に動かなくなってしまいました。
「先生、先生」と愛子が呼びました。
「ああ」と先生は自分に戻って、「この人」と中央で笑っている人を指さしました。
「この人がクラブのリーダー、中川樹先生です」
「・・・・・・ええ」
「いつき先生は3年前に青ケ岳で転落して、亡くなりました」
「ええ」
「先生の知っている人ですか」
「そうなのよ。わたしの大切なお友達・・・・・・」
先生が泣きそうに見えました。
愛子は何を言ってよいかわからなくなり、「ごめい福をお祈りします」と言いました。
めぐみ先生がしょんぼりとしてお店を出ていきました。山とは反対の方向に行ったので、家に帰ったようです。
中川いつき先生の事故があったから、めぐみ先生がこの村に来ることにしたのかしらと愛子は思いました。だからよく青ヶ岳に行くのかしら。だから、チョウチョのこともくわしいのかしら。




