76 マーフィの法則
エドウィンの話では、大学での仕事は夜中までかかりましたが、なんとかめどがついたので、彼は桐谷リュウノスケの車で送ってもらうことになったのです。
ところが途中でまたガソリンが切れてしまって、車が動きません。仕方がないので、ふたりは最終便の電車で東京に戻りました。エドウィンは東京で寝て、始発で帰ろうと考えたのでした。けれど、運が悪いことに、雪のためにダイヤが乱れて、電車が動いていないのです。
「じゃ、わたしが迎えに行こうか」
とめぐみが言いました。
「まだ時間がある。電車が動いたらすぐに帰るから。迎えには来ないで、そこにいて」
「わかったわ。じゃ、ここで待っています」
子供たちは朝の10時にやってくる予定です。
最初に計画した場所は学校でしたが、エドウィンがいつ到着するかわからないので、めぐみの家に変更しました。めぐみ先生は子供たちのために、お汁粉を作り始めました。
今年も最初からついていない、と思いました。
えっちゃんとの距離が、遠のいていくように感じてしまいます。
すべての運をユリシスで使い果たしてしまったのかもしれません。
そのことをちらりとエドウィンに言ったら、彼はそんなことはないと言いました。
「マーフィーの法則を知っているかい」
「ううん」
「人は悪いことが起こると、次もうまくいかないだろうと思うとマーフィーが言っているけど、そういうことは統計的には実証されていない。そういうことは、ないんだよ」
「そうなの?」
めぐみもそう信じたいです。
「そうだよ」
「きっと心理的なものかもしれない」
「そうだよ。必ず、そちらに行くから、心配しないで」
「無理しないでね。えっちゃんが無事ならそれでいいから。いざとなったら、子供たちの様子はビデオに撮っておくから。便利な世の中に生きているんだもの」
10時になり、子供たちが、がやがやとやってきました。子供たちが入ってくるだけで、部屋の空気が生き生きとしてきました。
子供たちは男子は茶系のセーターに黒いパンツ、女子は白いブラウスに赤いスカート、赤いスカーフを巻いて、民族衣装のつもりです。あまりにかわいすぎて、めぐみ先生は涙が出る思いです。
でも、エドウィンはまだ東京です。
「子供たちが到着しちゃいました」
めぐみがエドウィンに報告しました。
「それでは」
「それでは?」
「今日はビデオミーティングでいこう」
ああ、そうね、その手があったわ。
えっちゃんは諦めない人ね、とめぐみは思いました。




