71 洋とホープ
今度はめぐみの兄の洋の話題になりました。
洋はめぐみより5歳年上です。
洋は小さな時から頭がよくて、自分は天才だと思い、ノーベル賞をめざしていました。でも、ハーバードにはいってある学会に出て、自分は天才ではないとわかり、方向を転換しました。
大学を出た後はウォールストリートの金融会社で働き、独立して、自分の投資会社を始めました。はじめの数年は、毎日、億がつくほどもうかっていて、セントラルパークを見下ろす高層アパートに住んでいました。
エドウィンがニューヨークに出てきた時、洋のアパートに住んでいました。
ふたりは大学のアニメクラブのメンバーで、洋がエドウィンにおもしろいアニメを紹介したり、英語や日本語、ロシア語を教えあった仲なのです。
ニューヨークに来て、駆け足でお金持ちになっていった洋でしたが、世の中、そんなうまくいくはずがありません。もうけるのも早かったのですが、なくすのはもっとも早くて、電子マネーの投資に失敗して、あっという間にすべてを失ってしまいました。アパートも車も手放して、しばらく洋はエドウィンのアパートに住んでいました。
その時、破産の手続きを手伝ってくれたのがホープ・ジョーンズという女性の弁護士でした。ホープは15歳年上でしたが、仕事が終わっても付き合いは続いていたようで、洋はホープのマンハッタンのアパートに移っていきました。
ふたりが結婚になり、ホープは長年住んでいたアパートを売って、北のバッファローのほうに引っ越しすることにしました。ホープは子供が生まれたら、自然の中で、のびのびと育てたいと思っていたのです。
バッファローはニューヨーク州の北西部にあるニューヨークで二番目に大きな町です。ふたりが住んでいるのはその町の近くの村で、そこに大きな古い農場を買いました。そのあたりは土地が安いだけではなく、よそから来た人には村から補助金がでるのです。
一家を支えているのは、ホープです。ホープはマンハッタンから移る時、バッファローの4つの弁護会社から仕事のオファーがありました。
洋はフリーランスで働いています。
時々仕事がはいり、ある時は博物館の依頼で、古いコンピュータを再現したそうです。ホープは去年、プレシアという女の子を出産しました。子育てをしているのは洋です。もうじき2人目が生まれます。
洋は子育てだけではなくて、草刈りや雪かきも洋がしています。とてもそんなことをやる人には見えなかったので、人は変わるものだとめぐみは驚いています。
「いつまでも、このままだとは思えないわ。お兄ちゃんは富士山と同じ」
「ヨウが富士山?」
「富士山は死火山ではなくて、活火山なんですって。いつ噴火するかわからないから」
「今年の夏、ヨウが遊びにきたよ。3日ほど、うちに泊まっていた」
「ひとりで?」
「うん。ホープが休みをくれたんだって」
「できた奥さんね、ホープは」
「うん。世の中で洋をコントロールできるのは、ホープだけだろう」
「わたしも、そう思う」
その訪ねて来た時、「今、幸せなのか」とエドウィンが尋ねたら、洋の答えは「Satisfyingly good」だったそうです。「満足している」という意味ですが、ちょっと難しく答えるのはお兄ちゃんらしいとめぐみは思いました。




