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69 めぐみの来年

 新年度になっても、めぐみは今のクラスを持ち上がります。4月からはふたりの生徒が加わるので、今度は8人の担任です。新しい生徒は女子と男子で、ふたりとも東京からです。


 女子のほうはアスペルガー症候群で発達障害があると言われて、友達を作りたがらないようです。男子のほうはいじめっ子で、クラスで二度も問題を起こしました。


 女子のほうは一家で引っ越ししてきます。男子のほうは祖母の家から通うことになっています。

「人をいじめたりすることはどうしても直さなくてはならないけど、みんなが同じであることはかえって不自然だと思うわ」

 それに、別に友達と仲よくしなくたっていいじゃない、というのがめぐみの意見です。


「わたしは子供の時からひとりが多かったし、何でも友達といっしょにするという子供ではなかった」

「日本に帰ってからも?」

「そう。たいていひとり」


 めぐみは日本の高校での美術の時間のことを覚えています。めぐみは絵を描くのが大好きで、将来は絵本作家になりたいと思っていました。美術室のテーブルの上には、梨とぶどうとリンゴとつぼが置かれていました。めぐみは夢中になって、スケッチをしました。


 なにやらクラスの視線を感じて周囲を見回すと、みんなは画用紙に、梨とぶどうとリンゴとつぼを描いていました。でも、めぐみはぶどうだけを大きく描いていました。


 ああ、これはいけないと思い、急いでやり直しました。

「別に誰に言われたわけではないの。自分で、それは違うな、みんなと同じにしなくてはと思って、描き直しただけ。でも、その時に、これでいいんだという自信が自分にあったらよかったとは思うわ」

「そうか」

「高校になっても、友達には相談ごとをしたこともないし、いっしょに買い物に行ったこともなかった。友達がほしいとか思わなかった。でも、いないから強がっていたのかもしれないけど。友達って、いたほうが幸せかしらね」

「友達によるんじゃないかい」

「ひとりは自由だし、気を使わなくていいから、楽。絵本作家になったら、人に会わなくていいかなと思って、それを目指していたこともあったわ。それは、まだ諦めてはいないけれどね」


「ぼくもそうだよ。いつもひとりだった。ひとりで数式を考えるのが好きだった」

「すぐに友達ができるタイプかと思っていたわ」

「大人になってからね。こっちに来たら、ひとりでは生きていけないだろ。知らないことばっかりだし」

「そうね」

「今の子供たちは、ぼくが子供の頃よりも、ずっと幸せそうに見える。先生と友達みたいに仲がよいとかなんて、考えられない」


「今のクラスが嘘みたいに平和すぎて、かえって不安になることがあるの。だから、よそから生徒がはいってくるというのは、どちらにとってもよいことだと思うわ」


 めぐみは見かけがハッピーなクラスをめざすのではなくて、それぞれがその個性が伸ばせるようなクラスにしたいと思っています。生徒がやりたいことを見つける助けをしたい。それが、かなうように、その力になりたいと思っています。


「でも、答えは子供が自分で見つけることが多いから、あまりうるさくしないで、そばで見守っていきたいと思っているの。でも、そんなふうには、うまくはいかないと思ってはいるけど」

「なるほど」

「やってみないと、わからない。学校や保護者の意見もあることだし」


 子供たちが5年生になったら、担任が変わるかもしれません。

 でも、この子供たちが中学に入るまでは、その成長を見守っていきたい。


「その後のことは、それから考えたいと思っているの」

「うん、わかった」

 エドウィンの口元がわずかにゆるみました。

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