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63 アルジェンティーナの故郷

 翌日、エドウィンが語ってくれたのは、こんな話でした。


 以前、シカゴ大学に行った時のこと、それは2月頃で、キャンバスには白い雪が積もり、道路の一部は凍ってつるつるでした。

一番参ったのは、あの冷たい風。シカゴの風は、凍ったミシガン湖の上を風が走ってくるからなのでしょうか。下着のすきまから肌の上を走り、生きるのがつくらく感じるくらい冷たいのです。マフラーが必要だということを、身に染みてわかりました。


 その時、エドウィンはシカゴ大学に招かれていました。この大学には有名な付属病院もあり、とても有名なのだけれど、キャンパスの中は大丈夫でも、その周辺の環境がよくないのです。


 キャンパスは大学の建物と個人の建物が入り混じっているような感じで、数学の教授のビクトリアンの家は、キャンパスを一歩出たところにありました。その家は過去に3回も泥棒にはいられていて、エドウィンはキャンパスからは出るなと言われていました。


 そんなわけで、エドウィンはホテルと大学をタクシー移動するだけで、キャンパスから歩いて出たことがなかったのです。ある時、同僚のひとりからすぐ近くに「世界一うまいソフトタコスの店」があるから、行かないかと誘われました。ただおいしいだけではなくて、「世界一」というのだから、どんなものか思い食べに出かけることにしたのです。


 寒い日だったけれど、昼間だったし、外は明るいから、大丈夫だろうと思いました。

 キャンパスを出て、ハイドパークという小さな公園を横切れば、店はすぐです。公園の雪の中に、人が踏みしめてできた細い道があって、そこをふたりで歩いて行きました。


 すると、テニスコートのそばの雪の上に、丸いボールのようなものが3つ並んでいました。そのボールのようなものは、大き目のグレープフルーツくらいの大きさです。色は青と緑を混ぜたターコイズブルーで、なんて美しい色なのかと思いました。

 毛糸でできたボールか何かかと思って、じっと見つめていたら、学生のような男子が通りかかり、「バート」だと教えました。

 

 鳥?

 これが鳥?

「生きているんですか」

「そう。寒いから、丸まっているんだよ」

 今ならSNSで拡散したいほどの不思議さです。


 丸いボールが動くまで待っていたかったけれど、寒すぎたので、鳥のそばをそっと通り過ぎて、ふたりはタコスの店に行きました。評判通り、店には行列ができていて、味がよければ、みんなこんな場所まで出かけて来るのだなあと思いながら待っていた。


 帰ってから、友達が鳥の話をしたら、大学の仲間はみんなその鳥のことを知っていました。その鳥はアルゼンチンからきた「アルジェンティーナ」と呼ばれている鳥なのでした。


 なんでも、アルゼンチンから飛行機のカーゴに乗せられて、どこかへ運ばれる途中だったのです。ところがシカゴ空港で乗り換えの時、そのカーゴが壊れて、鳥たちが逃げてしまったのだということでした。


 そして、このシカゴに住むことになり、冬は寒いから、電信柱の電圧気のところに集まって寒さに耐えているのだと言ったのでした。


 エドウィンと友人は、この美しい鳥の不幸な運命を思い同情しました。あたたかい南のアルゼンチンで平和に暮らしていたのに、この寒い外国の土地で暮らすことになってしまったアルジェンティーナ、さぞかし故郷に帰りたいことでしょう。

 どうにかして、故郷に返すことはできないものだろうかと思ったりもしました。


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