62 革ジャンパーとエドウィンのママ
リバー先生の発表の、読み方の練習が終わったのは、もう深夜近くでした。
めぐみは、エドウィンから「後で時間ができたら、電話をして」と言われていたことは気になっていました。彼がああいう言い方をする時は、何かおもしろいことを話したい時です。
えっちゃんはおもしろい話をたくさん持っています。だから、聞きたいけれど、時間が遅すぎるので、「今、いい?明日にする?」とテキストを送りました。すると、待っていたかのように、電話がありました。
「遅くまで、練習していたんだね。リバー先生の調子はどう?」
「塩なめて、がんばっています。えっちゃんは今、どこ?ホテル?」
「まだ大学。暖房切られて、寒い」
「帰ればいいのに」
「鳥のことで、調べたいことがあったんだ」
「なぜ急に鳥なの?」
「リバー先生は、ユリシスはどうやって日本に来たと考えているんだい」
「それがわたしに話したいこと?」
「うん。がっかりしてる?」
「えっちゃんの話はおもしろいから、何だろうかと期待はしていたけど、鳥の話だとは思わなかったわ」
「話がおもしろいと言ってくれるのは、メグだけだよ」
「そんなことない。おもしろいよ」
ユリウスはシンガポールや台湾から日本に飛んできたのかもしれないし、カーゴの積み荷の中にまじっていたのかもしれない、とリバー先生は考えているとめぐみは伝えました。この先、ユリシスを捕獲して、DNAの比較をすると、もっとわかってくるはずです。
「やっぱりカーゴ説か」
「やっぱりって、何がやっぱり」
「そこのところについて、話したいことがあるんだよ」
「へぇ」
「でも、話すには、ここは寒すぎる。風邪をひいたら、富士山に行けなくなる。それは困る」
「あの革ジャンパーを着たら」
「あれは着てこないよ、この大学には」
エドウインは旅行するときには、お守りみたいに、母親が古着屋で買ってくれたジャンパーを着るのです。その店にはエドウインが着れるサイズがそれしかなかったから、少し大きめです。それと、母親がくれたネックレスもつけるのですが、大学にはやはりそういう恰好では来ないようです。
「寒すぎるから、この話は明日でいいかい」
エドウィンがそういうのですから、よっぽど寒いらしいです。
「仕方がないでしょ、待つけど、でも、何の話かだけ教えて」
「だから、鳥の話だよ。シカゴで見たアルジェンティーナという鳥の話だよ」
「きれいな名前の鳥ね」
「きれいなことはきれいなんたけど、長い話なんだ」
「わかった。では、明日まで待つことにするわ。明日はリバー先生のリハーサルに付き合うから、夜ね」
「わかった。おやすみ」




