59 アームストロングの歌
翌日の早朝、めぐみ先生はカメラをもって出かけました。村や山の様子を撮って、リバー先生に送るためです。
めぐみはお店のほうに向かって歩いていきました。愛子ちゃんとそこで会い、平家山に行って、冬眠しているチョウの卵を探そうということになっています。
すると、学校のほうから子供たちが走ってきました。
3年生の全員です。
みんなは歌の練習をするはずでしたが、愛子の話をきいて、みんなも先生といっしょに行くことにしたのです。
生徒たちが歌を歌いながら、前を歩いて行きます。めぐみ先生は写真を撮りながら、少し遅れて歩いて行きました。
生徒たちが歌をうたっています。
「りんごの花ほころび
川面にかすみたち
きみなき里にも
春はしのびよりぬ」
ロシア民謡の「カチューシャ」です。
1月3日にエドウィン先生と会う時のためのサプライズというのは、このことだったようです。
めぐみには、エドウィンの喜ぶ顔が浮かんできました。
彼は何て言うのかしら、とても楽しみです。
空は水色で、村は静かで平和、
めぐみは自然と「What's a Wonderful World(なんて素晴らしい世界)」と歌っている自分に気がつきました。
この歌はルイ・アームストロングという人の歌で、アメリカではよくかかっているので、何度も聞いたことがあります。
これを歌ったアームストロングは黒人ですが、作詞作曲をしたのは両者とも白人です。
「なんてすばらしい世界なんだ」と歌っていますが、作られたのは1967年で、人種差別も今とは比べものにならないほどひどく、当時はベトナム戦争中で、世界は「素晴らしい世界」どころではありませんでした。
作詞した人は平和な世界を願って作ったそうですが、めぐみはあまりにのんびりしすぎている歌だと思いました。今も世界のどこかで戦争が続いてる中で、こういう世界はありえない。だから、めぐみ自身は、一度もこの歌をうたったことがありませんでした。
それなのに、今、気がついたら口から歌が出ていました。
その歌の意味はこうです。
「緑の木が見える
赤いばらの花も
ぼくときみのために
咲いているようだ
ぼくは思うんだ
なんてすばらしい世界なんだろうって。
空は青く
雲は白い
昼間は祝福されて、明るく輝き
夜は暗くて、清らかだ
そして、ぼくは思うんだ
なんてすばらしい世界なんだって。
空にかかる虹
いろんな色、なんてきれいなんだろう
通り過ぎる
人々のいろんな顔
みんな握手をして
お元気ですかとあいさつをする
そして、心から言うんだ
I love youと。
赤ちゃんが泣いている
大人は子供の成長を見守っている
子供たちは、ぼくたちの知らないことを
たくさん学ぶのだろう
そう、ぼくは思うんだ
なんてすばらしい世界なんだと。
Oh, Yes」
めぐみ先生は子供たちの後ろ姿を見て思いました。
この子供たちは、自分よりも強く、やさしく、相手のことを思う気持ちがあります。
そして、自分が知っている以上のことを、たくさん学んでいくのでしょう。
この歌のように。
子供たちが築く世界の未来は、今よりもすばらしいものになってほしい。わたしはそのお手伝いをしたい。生徒たちの成長をずうっと見守っていきたい、とめぐみ先生は思うのでした。




