57 青いチョウ
25日、クリスマスの朝、めぐみ先生がまだベットにいる時に、電話が鳴りました。オーストラリアのリバー先生からでした。
「朝早くてすみません」
時計を見ると6時、パースはまだ5時のはずです。
「何かありましたか」
早朝の電話にはびくびくします。
「いつき先生のあの写真のことなのですが」
彼の説明によると、オーストラリアには、「ユリシス」、日本名では「オオルリアゲハ」というコバルトブルーのチョウがいます。この美しい青いチョウはオーストラリアにしかいません。幸せを運ぶチョウとして、世界中の人々から人気がある貴重なチョウなのですが、年々数が減って、絶滅するかもしれないと心配されています。
ところが、先週の学会でイギリスの昆虫学者が、「シンガポールにおけるユリシス新種の存在」という研究を発表をしました。
「ユリシス・シンガポール」と名付けられたそのチョウはホテルの屋上で見つけられ、写真に撮ることができました。
オーストラリアからシンガポールまで、どのようにして飛んできたのか。気候変動の影響か、火山灰に乗って流れてきたのか、または何かにくっついてやってきたのか、いろいろと考えることができます。
オーストラリアからシンガポールの飛行便は多いので、卵か幼虫が荷物にくっついて来たというのは、考えられないことではありません。
すると、昨日、台湾の学者が、台湾の山で見た者がいるという発言をしたのです。けれど、その証拠写真はありません。
ユリウスは成虫になってからは2週間くらいの短い命ですし、その飛行が速いので、なかなか写真に収められないのです。
リバー先生は、いつき先生の写真の卵が「ユリウス」の新種なのではないかと考えます。しかし、シンガポールも台湾も熱帯に位置しますが、日本はほとんどが温帯に属しています。温帯で生存していたという例も、卵で冬眠したという例もありません。
もし日本にユリシスが住んでいるとなると、それは日本が亜熱帯化しているということかもしれません。
リバー先生はあの卵が羽化して、成虫になった証拠がほしいのです。
「めぐみさんは大つた村で、青いチョウチョを見たことはないですか」
めぐみは春や夏にチョウはたくさん見ましたが。青いチョウについては、見たことがあるような気はしますが、たしかではありません。
「ぼくはあれがユリシスの新種だと思うわけは、」
4年前、大つた村で青いチョウを見たという情報がはいって以来、いつき先生はよくその村の山に行っていました。青いチョウはいたと言ってはいたのですが、そのチョウはすばやいので捕ることができず、写真も撮れないでいたのです。
秋のあの日、いつき先生は冬眠している卵か幼虫を見つけて、それを研究室で羽化させて、「クリスマスに、青いチョウを部屋中に飛ばして、驚かせたい」と言って、出かけて行ったのです。
「青いチョウを飛ばして、おどろかせたい相手はめぐみさんですよ」
「わたしですか……」
その時、めぐみにはいつきさんのメッセージ、「見つけた。こうご期待」の意味がわかり、泣きそうになりました。
「最初に青いチョウの情報をいつきさんにくれたのは、日てふてふ(にチョウチョ)クラブの人ではないでしょうかね」
「きっとそうだと思います」
「わたし、これから日こてふてふクラブに行って、メンバーが青いチョウの写真をもっていないかどうかを尋ねてみます」
「それはうれしい。それで、申しわけないのですが、できたら、なるべく早くお願いします。ぼくは30日に研究発表があるのです。もし大つた村でユリシスがいたという証拠が手にはいったら、ぼくはテーマを変更して、いつき先生が見つけたこのチョウのことを発表させてもらうつもりです。日本にも、ユリシスがいることを世界に知らせたい」
「わかりました」
青いチョウの写真を見つけなくては。
何もない25日だと思っていたけれど、めぐみはとても大きな使命を与えられました。
よし。わたし、がんばる。
めぐみはやる気が湧いてくるのを感じていました。




