54 コガネムシ
めぐみはずっとパスコードのことを考えています。あと2回しかトライできないので慎重です。
びくびくしていても仕方からないので、富士登山のためにレーニング、ジョギングに出かけることにしました。
走っていたら、何かよい考えが浮かんでくるかもしれません。
たんぼの道を走っていると、前を子供たちが歩いていました。
めぐみ先生のクラスの生徒たちです。
明夫を真ん中にして、そう太郎は肩を組んでいます。心なしか表情が暗いです。
めぐみ先生は速度を上げて、子供たちのそばまで駆けて行きました。
「みんなそろって、どうしたの?」
「せんせー」
明夫が赤い顔をして、泣きべそをかいています。
「何があったの?どこか痛いの?」
めぐみ先生は心配そうな顔です。
明夫はみんなのために、庭の横にさつまいもを植え、クリスマスに食べさせようと計画していました。落ち葉を集めて、みんなで焼き芋をしたら、楽しいだろうと考えていたのです。
でも、できたのは細いのが3本で、あとは全部、コガネムシの幼虫にやられてしまいました。数えてみると、幼虫は100匹もいました。
コガネムシは緑のきれいな虫なので、明夫は育てようと思いました。ビンにいれておいたのですが、それを父親に見つけられてしまいました。
「これは、だめだ」
父親はカナブンとカブトムシの姿は似ているけれど、これはカブトムシ。カナブンはよい虫だけれど、コガネムシは害虫、悪い虫なので、殺してしまいなさいと言うのです。
殺すなんてかわいそうすぎます。明夫は葉っぱの船を作り、虫たちを川に流そうとしました。旅に出してあげようと思ったのです。それを知った父親が雷のように怒り、虫をドラム缶の火の中にほうり投げました。
それで、明夫は泣きながら、愛子のところに走りました。
愛子が昆虫にくわしいからです。
愛子は本を調べて、コガネムシは金持ちだというけれど実は害虫で、幼虫は根を食べ、成虫は葉を食べるから、それが100匹もいたらそれはおそろしい。1匹のメスは100匹くらいの子供を産み、それも1年に3回か4回。そんな具合に増えていったら、村の畑を全滅させることになるのだと言いました。
もし川に流して、それが他の家の畑に流れついたら、そこの家の畑がとんでもないことになります。だから、明夫の父親はあんなに怒ったのでした。
「お父さんは畑が命だから、害虫から守らなければならないの。わかってあげて」と愛子が言いました。
うん。
明夫は頭では理解できたのですが、悲しくて仕方ありません。
それで愛子がみんなに集合をかけて、みんなで何か楽しいことをすることにしたのでした。あることを決めたので、これから学校に行って練習するところなのです。
「みんな、えらい。何を決めたの?」とめぐみ先生がききました。
来年の1月3日に、エドウィン先生と会えることになっているので、生徒たちは、その時のためのサプライズを考えたのです。
「どんなサプライズ?」
「まだひみつです」
「ヒントは」
「歌、踊り」
めぐみ先生にはそれが何だか、少しわかりました。
「エドウィン先生は大喜びしますよ」
「先生、スマホのパスコードがまだわからないのですか?」とれいかがききました。
「そうなの。あと2回しか、失敗できないのよ」
「ほんとうに、まいったね」とめぐみ先生は小声で言いました。
生徒たちとはそこで別れたのですが、めぐみ先生がジョギングから帰ってくると、生徒たちが訪ねてきました。今度は、明夫も、にこにこしています。
「先生、まいったねって、先生の口ぐせですよね」とれいかがききました。
「口ぐせ? そんなこと、言うかしら」
「まいったね、よく言うじゃ」とそう太郎が言いました。
「わたしもききました」と愛子です。
みんなも聞いたといいました。
れいかが目をかがやかせています。
「先生、パスコード、0132でやってみて」
「0132?」
めぐみ先生がこれは何の番号だろうと思いました。
「やって、やって」
生徒たちが声を合わせました。
「やって、やって。お願い」
あと2回しかないのですが、みんなにこんなに言われたら、やるっきゃないでしょ。みんなが見守る中、めぐみ先生が、0132と数字を入力しました。
その数字をいれると、・・・・・・なんとログインできました。
スマホが動いたのでした。




