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53 パスコード

 めぐみ先生は畑野家に行きました。

 さて、いつき先生のスマホは動くのでしょうか。


 めぐみはれいかのおばあちゃんに、エドウィンがお世話になったお礼を言いました。

「朝早く出たり、夜遅くに帰ったりのあわただしい客で、ごめんどうをおかけしました」

「そんなことはありませんよ、ぜんぜん」

 おばあちゃんはお茶を運んできたお盆を胸に抱いてうれしそうに言いました。

「エドウィンさんが風のように廊下を歩いているだけで、エネルギーを感じることができるの。話していると、やる気がでますわ。京都の帰りにまた寄ってくださるのが、楽しみよ」


 めぐみはこんなふうに言ってくれるおばあちゃんの人柄、包容力を思いました。できた人です。どこにでもいる方ではありません。


 めぐみはさっそくスマホをオンにしてみました。ロック画面がでてきて、パスコードを要求しています。

 彼のパスワコードは4ケタの数字です。


 めぐみはパスコードを見つけるのは、そんなに難しくないと思いました。

 まずは彼の誕生日、・・・・・・・だめでした。ホーム画面にはなりません。


 次に、めぐみ自身の誕生日、・・・・・・もしかしたらとちらりと思ったのですが、だめでした。がっくりです。


 いつきさんのお母さんに電話をして、両親の誕生日をききました。お母さんはスマホが動いたときいて、とても驚いていました。

「私は最新のスマホを買えるくらい払ったのに、直らなかったのですよ。直したのは、どこの店ですか。次はそこにします」


 でも、いつきさんのお母さんの誕生日もだめでした。お父さんのもだめです。彼がファンだったイチローの誕生日も、だめでした。

 お母さんはいつきさんのメモに、パスコードが書いてないか、調べみると言いました。


 めぐみがたて続けに6回失敗したので、1分待てという指示がでました。

 次に失敗する、5分待ちになり、次は 60分待ち。10回失敗すると、スマホは初期化しなければならなくなります。

 めぐみはこのスマホにある写真を見たいので、初期化はまずいのです。

 ここまできたのに、まいったね。


 めぐみは、これ以上は失敗したくないので、家に帰って落ち着いてから、試すことにしました。おばあちゃんがケーキを用意してくれました。


「エドウィン先生はお店を探すのに、お友達に助けてもらったようですよ。東京にも、お友達がおられるんですね」

「日本の先生方と、共同研究しているようです」

「数学でも、共同研究があるのですか」

「わたしにはよくわかりませんが、そのようです」


「お友達というのはこの人だと思います」

 めぐみがもんじゃ焼き屋での写真を見せました。

「あら、この先生」とおばあちゃんが指さしました。

桐谷龍之介きりたにりゅうのすけ先生ですわ」


「ご存知なのですか」

「ええ。有名な先生で、テレビで拝見したことがあります」

 桐谷龍之介は東大の数学科の教授で、子供の頃から「神童」と呼ばれたそうで、マルチなタレントがあるようです。


「でも、ちょっと変わった人よ。そう、本も出されていますけど、何だったかしら」

 おばあちゃんは本棚のところに行って、本をずらしたり、引っ張りだしたりしていました。


「ありました。これです」

 本のタイトルは「ヴェスヴィオに死す」で、その扉には、彼の写真がありました。 

 書斎の机の前で、骸骨がいこつを手にのせて、ながめている写真です。あのもんじゃ焼きにいた友達の顔でした。


 めぐみはヨーロッパでは骸骨をお守りにしている学者がいると聞いたことはありますが、それはずぅっと昔の時代のことです。


「何が書かれているのですか」

「主人のもので、私にはわかりません。よろしかったら、どうぞ」

 おばあちゃんが本を差し出しました。

 本はずっしりと重く、目次を見ても、わからない名前ばかりが並んでいました。

 まいったね、とまためぐみは思いました。


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