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50 やさしい人

「そうですか。わたしの言い方は冷たいですか」

 めぐみは少し思い当たるふしはありましたが、でも、ルツ子さんにはっきり言われると、そうなのかぁとやはりショックです。


「今日エドウィンと会った時、めぐみさんがどんなにスマホを探していたのか、エドウィンさんに言ってしまいました」

 それから、スマホの中に、いつき先生が見つけたものの写真が残っているのではないかと思っていることも。


「ああ」

 めぐみは少し驚きました。

「言って、悪かったですか」

「そんなことは、ないですが……」


「だから、エドウィンさんはスマホを直して、めぐみさんを喜ばせようとしているのよ。あなたのために、懸命になっているのではないですか」


 まいったな。

「感謝はしているのよ、えっちゃんには」

 めぐみが下を向きました。


「でも、感謝から心配を引くと、心配のほうが残ります。もうスマホのことはどうでもいいから、無事に帰ってきてほしい気持ちです」


「めぐみさん、心配していたの?」

 それを聞いて、めぐみが驚きました。

「もちろんですよ。そう見えませんでしたか」

「見えませんでしたよ」

 そうなのかぁ。

 人の心は他人には見えないから、仕方がないですが。


「ごめんなさい、めぐみさんがあまり気にしていないように見えたから、なんか、エドウィンさんがとてもいじらしく思えて。かわいそうになってしまったの」

「すみません。そういうつもりではなかったのですが、・・・・・・」


「違ったかしら。きっと私が敏感びんかんすぎたんだわ。だって、そんなやさしい男性に会ったことがないから」

 とルツ子さんが笑いました。


「そうなんですか」

「私が付き合った男性の中で、そんなやさしい人、いなかったわ」


 めぐみは、たしかにえっちゃんはやさしいと思いました。

 いつき先生が死んだ後、めぐみは大学はどうにか卒業だけはしたけれど、仕事を探す気力もなく、ニューヨークの父親のところに行きました。心がよれよれで、何をみてもおもしろくなく、ふさいでいた時、エドウィンがよく迎えに来てくれて、セントラルパークに散歩に行ったことを思い出しました。


 歩いていても、別に話すことも思い浮かばなかったから、口もきかず、笑顔も作れなかったのに、彼はいつもそばにいて、一緒に歩いてくれました。時には、後ろから黙ってついてきてくれました。

 クラブにも、ミュージカルにも、連れていってくれました。

 えっちゃんは本当にやさしい人だな、と今さらのように思いました。


 早く、無事で帰ってきてほしい。

 時間が飛んで、今、明日が見られたらよいのに。

 元気なえっちゃんがいて、にこにこ笑っていたら、それだけでいいと思いました。


「えっちゃんのために、写メしましょうか。ふたりでお好み焼きを食べているところ。モンブランもいれて。それを見たら、お腹がへっていることを思い出して、何か食べるかもしれないから」

「写メ、いいですね」

 ルツ子さんはバッグの中から化粧バッグを取り出してメイクを直し、髪をととのえました。めぐみは部屋に行って、仮面ライダーのマスクみたいなものをもってきて、かぶりました。


「なんですか、それ」

「生徒たちがお誕生日に作ってくれたのよ。メグライダーのマスクです」

「本当にめぐみさんって、おもしろいわ」

 ふたりはホットプレートの前でピースサインをして送りました。


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