5 明夫とくるみ
日曜日の「よいこの将棋大会」では、明夫は3回戦であっさりと負けてしまいました。それも、相手は年下の2年生でした。
応援団長のそう太郎はがっかりはしましたが、「明夫くんは春から習い始めたばかりなのに、よくここまでがんばりましたね」とそう太郎ママがほめました。
「来年がありますよ」とめぐみ先生が元気づけました。
「4年生は高学年の部だからもっと難しくなるけど、ぼくはがんばるんじゃ」 と明夫が力強く言いました。
「えらいわ」
いつもはおとなしい明夫なのに、きょうは別人に見えます。大会に出ると、人は急に大きくなるものなのね、とめぐみ先生が感心しました。
「明夫は名人になって、家族をやしなわんきゃならんのじゃ」とそう太郎が言いました。
すると、「うん」と明夫がうなずきました。
明夫の家は農家なので、仕事がとても大変なのだろうと先生は思いました。
お昼になったので、みんなは外に出て、そう太郎のお母さんが作ってきてくれたおにぎりとから揚げを食べました。おいしいね、と顔を見合わせながら、全部食べました。
その時、白い車が市民会館の前に止まって、中からくるみが下りてきました。くるみのママは急ぎの用事があるので、車の中から頭だけ下げて、去っていきました。
明夫が立ち上がって、くるみのほうに走っていきました。ふたりは立ち止まって何か話をし、それから手をつないで、みんなのところに来ました。
「仲がいいのね」とめぐみ先生が言いました。
「ぼく、大人になったら、くるみと結婚するんじゃ」と明夫が言いました。
「そうなの?」と先生がくるみにきくと、こくりとうなずきました。
こういう時には何と言えばよいのかしら、とめぐみ先生は言葉をさがしました。
「ぼくは結婚したら、くるみを世界中で一番愛するんじゃ」と明夫が言いました。
めぐみ先生はまだ何を言うかが決まっていません。子供に自由に言わせておいたほうがいいのかしら、とか思っていました。
「子供ができたら、その子供も、同じくらいに愛するんじゃ」と明夫が言いました。
ええっ、もう子供の話?
「次の子供が生まれたら。その子供も同じくらい愛するんじゃ」
くるみがにこにことうなずいています。
めぐみ先生がおたおたしている間に、明夫の家族はふえていきます。
「下の子が生まれたら、その子供も同じくらいに愛するんじゃ」
「子供を育てるのは大変よ。それくらいにしましょうか」とめぐみ先生が言いました。
「うん」と明夫が話をやめました。
どうしてこんな話になってしまったのかしら。今の子供はこういうものなのかしら。めぐみ先生にはよくわかりません。
帰りはそう太郎のお母さんが運転して3人を連れて帰るので、駐車場に車を取りに行きました。めぐみ先生は町で寄りたいところがあるので、ひとりで帰ります。
車を待っている時、
「先生は結婚せんの?」とそう太郎がききました。
「そういう予定はありません」
「せんせい、いくつですか」と明夫です。
「25歳です」
ええっと明夫が驚いたので、くるみが明夫を見てだめだめと首を振りました。
めぐみ先生は明夫が驚いたことと、くるみがそれを制したことにとても驚きました。わたしって、歳なの?
「先生、好きな人おるんか」とそう太郎がききました。
「前はいましたけど」
「そうか。今好きのは、山なんじゃろ」
「よくわかるのねぇ」とめぐみ先生が笑って答えました。




