4 先生はトムボーイ
次の土曜日、めぐみ先生が校舎をでると、広い校庭の鉄ぼうのところにそう太郎がいて、地面をえいえいっとけ飛ばしていました。
「そう太郎くん、どうしたの? 今日は将棋に行く日でしょう」とめぐみ先生が言いました。
「きょうは行かないんじゃ」とそう太郎くんが怒ったように言いました。
「なにか困ったことでも、あるの?」
「ない」
「先生でよかったら、相談にのるけど。こんなわたしでは頼りないかしら。だめかしら」
「そんなことないじゃ」
ふたりはブランコのところに行きました。
先生がはブランコに乗りって、こぎだしました。
ブランコが大きく揺れると、「あー、山がよく見える」と先生が喜んだ声を出して、もっとこぎました。スカートがひらひらしましたが、先生は気にしません。
「先生は子供の頃、すごいおてんばだったんじゃろ」とゆう太郎が言いました。
「わかる?」
「わかるさ。今でも、山登りが好きだし」
「何でも、わかるのね」
めぐみ先生が毎週山登りに行くことはみんなが知っています。
「夏休みが終わったら、先生が超真っ黒になっていたんで、みんな、びっくりしたんじゃ」
「この色、すごいよね。自分でも、そう思うわ」と先生はブランコをゆらゆらさせながら止めました。
「そんなに黒かったら、嫁にいけないじゃ」
「どうして」
「大人がそういうふうに言っている」
「色が黒いのが、なんだい。そんな男のところへ行くかい」
先生が急に啖呵を切ったので、そう太郎が目を丸くしました。
「まいったね。冗談ですよ」
とめぐみ先生が立ち上がって、そう太郎の肩をたたきました。
「そう太郎くん、何かこまってる?」
「うん。でも、言い過ぎてしまった。この口がわるいじゃ」とそう太郎は口を手でごしごしこすりました。
「何があったの?」
「でかい口を叩いてしまったんじゃ」
先生はもう少しで笑いそうになりましたが、がまんして、まじめな顔をしていました。
明日の日曜日、市民会館では「よいこの将棋大会」が行われ、そう太郎の将棋教室からは低学年から3人が出場することになっています。
「ぜったい選ばれると思っていけど、選ばれんかった。明夫は選ばれたけど」と言って、涙をふきました。
「選ばれなくて、悔しいのね」と先生は言って、またそう太郎の肩をぽんぽんと叩きました。
「それって、すごいよ」と先生が言いました。
「どうして?」
「藤井聡太さんも、子供時代に負けて、わんわん泣いたという話を聞いたことがあるわ。そういう悔しい心は大事。そう太郎くんも、将来のチャンピオンかも」
「その話は知っているんだけど、ちょっと違うんじゃ」
「どこが」
「藤井大先生は子供時代の大会に、着物を着て出ていた。ぼくが一番の優勝こうほだって言ったから、うちの母さんがよろこんで、ぼくの初試合のために着物を作ってくれた」
「あらあら」
「それだけじゃないんじゃ。おにぎりととりの唐揚げをもって、応えんに来ると言っている。明夫んちは農家で、今忙しくて誰も来れんから、その分も作るって張り切っている」
「そうだったの」
「今さら出場もできないなんて、恥ずかしくて、言えないさ」
「そうよね」と先生が頷きました。
「どうすればいい?母さんはもう鶏肉を買ってしまったんじゃ。どうすればいい?」
「そう太郎くんは、どうすればいいと思う?」
「やっぱり、本当のことを言うしかないじゃ」とそう太郎くんが泣きました。
「そうよね。でも、こういうのはどう?みんなで明夫くんを応えんに行くというのは?先生も、そのおにぎりと唐揚げを食べてみたいわ」
「先生も来てくれるの?」
「行くわよ。先生はおてんばだけじゃないのよ。食いしん坊なの」
そう太郎くんの顔が明るくなりました。
「先生、英語ではおてんばは何ていうの?」
「トムボーイよ」
「食いしん坊は」
「フーディ」
「これでふたつ覚えた。母さんにも、教えてあげる」とそう太郎くんは元気に言いました。




