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3 めぐみ先生が泣いた日

「それは幼稚園の時のことよ」

めぐみ先生が話し始めました。


 その頃、わたしはニューヨークの郊外のアーモンクというところに住んでいたのよ。「サンフラワー・プリスクール」という幼稚園に通って、そこではメグと呼ばれていたの。


 担任の先生はミセス・ホワイトと言って、とても大きくて、金髪のちょっとこわい先生でした。


 幼稚園ではおやつの時間があってね、まるいテーブルのところに行って、先生からカップにミルクを注いでもらいます。ミルクのはいっているピッチャーは重いので、子供はさわってはいけません、と言われていました。

 ミルクをもらった後は、お皿からクッキーを2枚取って、自分の席にもどって食べるのです。

 

 ところが、わたしの番になった時、ミセス・ホワイトが「Wait a little bit」と言っていなくなってしまったの。ちょっと待っていなさいという意味よ。それで、わたしは待っていたの。ずーっと待っていたのよ。


 でも、いくら待っても、ミセス・ホワイトは戻って来ません。

 わたしはおやつの時間が終わってしまうと心配になってしまいました。


 それで、テーブの上の大きなピッチャーに手を伸ばして、自分でカップにミルクを注ぐことにしたのよ。

 すると、ミルクがどぽっと出てしまって、プラスチックのカップを倒して、テーブルの上を流れました。テーブルの下にも、ぽたぽたと落ちて、床に広がりました。


 わたしはこわくなって、クッキーだけを取り、自分の席にいそいで戻りました。

 しばらくすると、ミセス・ホワイトが戻ってきて、ピッチャーが倒れているのを見て、「オーマイガッド」と言って怒りはじめました。


「誰がやったの?ピッチャーにはさわるなって言ってあったでしょ」とかんかんです。


「言いつけを守らなかっただけではなくて、ミルクがこんなに無駄になってしまったんですよ。こんなことをしたのは、だれですか」


 わたしはますますこわくなって、となりの椅子の子に、「だれがやったんだろうね」なんて言ってしまいました。


「だれが犯人か、かならずつきとめますからね」

ミセス・ホワイトはかんかんです。


 午後のクラスがどう過ぎていったのか、覚えてはいません。

 いつミセス・ホワイトにつかまるのか、そればかり心配していたからです。

 でも、犯人が見つからないまま、帰る時間になりました。


 いつものように、ママが迎えに来ました。

 わたしは急いで車に乗り、「はやく出して、はやく、はやく」とママに言いました。


 車に乗った後も、心配で、何度もうしろを振り返りました。今にもミセス・ホワイトが「はんにんは、メグだ」と両手をあげながら追いかけてくる気がしたからです。


 ようやく家に着きました。

 家のガレージで車をおりた時、わたしはようやくほっとしました。ミセス・ホワイトが追ってこないとわかったからです。

 とたんに緊張がとけたのか、わたしはわっと泣き出してしまいました。


 自分でもどうしてなのかわかりませんでしたが、自分でも驚くくらいの大声で、肩をふるわせて、顔を真っ赤にしてわんわんと泣きました。


「どうしたの? どこか痛いの?だれかにいじめられたの?」

 ママが心配して聞きましたが、わたしは答えずに、ただ泣いていました。


 自分の部屋に戻ってからも、ミルクのことを思い出すたびに、こわさが襲ってきてまた泣きました。


「それが泣いた話よ」

 めぐみ先生が肩をちょっと上げました。


「大人になってみるとたいしたことではないとわかるけれど、子供のわたしにとっては大事件で、今までだれにも話したことがなかったわ」


「先生、かわいそう」

 と和歌が涙ぐみました。

「お母さんにも、言わんかったはどうしてじゃ」とそう太郎がききました。

「どうしてかしら。はずかしかったからかしら」とめぐみ先生が言いました。


「はずかしいことじゃないよ」と愛子が言うと、

「すぐに戻ってみなかったミセス・ホワイトが悪いじゃ」とれいかが言いました。

「そうじゃ、そうじゃ」とみんなです。


「ぼくにはよくわかる」

 そう太郎がぽつりと言いました。






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