45 エドウィンが迷子?
「どうかなさいましたか」
声をかけたのは女性の警官でした。
登山者から、変な男がピクニックテーブルの上で寝ているという通報があったので、巡査が派出所からやってきたのでした。
「メグが何かしましたか」
「えっ」
警官が驚いた顔をしたので、エドウィンは寝ぼけて変なことを言ってしまった、失敗したと思いました。
「すいません。ランチを食べたら眠くなって、ここで寝ていました」
とエドウィンが日本語で言いました。
「お名前は?お住まいは?どうして、ここにいるのですか」と巡査が職務質問をしました。
エドウィンは名前を告げて、決して怪しいものではなく、シモフジ小学校の先生の友達を訪ねてきて、町の畑野さんという家に泊まっていますと答えました。
「ああ。めぐみさんと畑野本部長、お世話になっています」と巡査が笑顔になって、「平家山派出所、巡査の佐々木ルツ子です」と名乗りました。
「こんなところで寝ていて、寒くはなかったですか」
とルツ子がききました。
「いや。ああ、少し」
「派出所に来られませんか。あったかいコーヒーをいれてさしあげますよ」
「ありがとう」
とたんに寒さがおそってきたので、エドウィンはジャケットの手を通し、腕をさすりました。
ふたりはパトカーで、派出所に行きました。
めぐみさんは知っていますが、知り合いになったのはつい最近のことで、スマホを見つけたのがきっかけですとルツ子さんが言いました。
「迷惑をかけてすみません。メグが山でスマホを落としたんですか」
探していたのが中川樹のスマホだということは知らないようです。
「中川いつき先生のことはご存知ですか」
「はい。4、5年前に亡くなった友達の昆虫学者ですよね」
「はい。スマホはめぐみ先生のものではなくて、その先生のものですよ」
えー。
エドウィンは何も言いませんでしたが、ずいぶんと驚いたようでした。
めぐみ先生はいつき先生が青ヶ岳から転落した時に落としたものだと思い、そちらを探していたけれど、実は平家山で落としたことが、れいかちゃんの推理でわかったのです。
スマホは見つかったけれど、今は中川いつきさんの実家にあるはずですが、「ひどく壊れていたので、もう使えないと思います」とルツ子が言いました。
いつき先生からさいごに送られたメッセージが「見つかった」でした。
だから、見つかったものは何なのだろうか。写真に残っているのではないだろうか、とめぐみ先生が探していたのです。
エドウィンはその話をきいて、メグがなぜこの村に来て、よく山に行っていたのかがわかりました。再会した時、その日焼け具合にとても驚いたのですが、それほど山に通っていたからでしょう。
「ニューワークからわざわざ会いにこられたのですか」
「京都で仕事があったからです」
とエドウィンが答えてから、ちょっと考えました。
「それは本当です。でも、少しは口実で、メグに会いにきました」
ルツ子は、彼が正直な人だと思いました。
「富士山に登るのでしょう。私も登ったことがあります。誰のアイデアですか」
「ぼくのアイデアです。メグがよく山に行っていると書いてきたので、それほど山が好きなのかと思ったんだけど、スマホ探しだったかぁ」
とエドウィンが笑いました。
「めぐみさんがお好きなのですね」
「はい。とてもよい友達です」
「めぐみさんのどこがお好きですか。すみません、ぶしつけなことを聞いてしまって。私、誰からも、好かれないので、どうしてかなと思って」
ルツ子さんには大好きだった彼がいました。でも、その彼からもう会いたくないと言われて別れたつらい経験があります。
めぐみさんはよい人ですが、それほどもてるタイプには見えません。
それなのに、いつき先生からも、エドウィンにからも好かれている、そんなに好かれる理由はどこなのか、真剣に知りたいと思ったのです。
「どこだろう」
エドウィンが腕を組んで考えました。「どこだろう」
好きということは、そういうことなのかもしれない。わからないものなのだとルツ子さんは答えをもらうのをあきらめましたが、「メグは話してして、おもしろいよ」とエドウィンが答えてくれました。
もっとその先が知りたいとルツ子さんは思いました。この人なら、答えてくれそうな気がします。
「話していておもしろいから好きなのではなくて、好きだから話していておもしろいのではないですか」とルツ子が言いました。
「そうかもしれない」とエドウィンが言いました。「よくわからないけど、そばにいると、楽しいよ」
その時、スマホの着信音が鳴り、それは家に戻っためぐみからでした。
「どこ?」とめぐみがききました。
平家山の派出所にいると答えると、「迷子になったの?」と驚きました。
「すぐに迎えにいくから、えっちゃん、Don't move (そこから、動いてはだめ)」




