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38/85

38 全部無料ですか

 今夜は遅いので、れいかもめぐみ先生も来られず、おじいちゃん、おばあちゃんとえっちゃん、3人だけでの夕食です。


 おじいちゃんが、「ビールがすきですか」と英語でききました。

「はい、好きです」とえっちゃんが日本語で答えました。


「孫と3人で英語を習っています」、とおじいちゃんが英語で言い、

「ワンダフル」とえっちゃんが英語で言いました。



「はじめてハーバード大学に来られた時、英語はどうでしたか。むずかしかったですか」とおばあちゃんがききました。


「読むのと書くのは少しできたけど、聞くのがだめでした」


 ハーバードでは、大学はひとりの部屋を用意してくれました。

 大学から帰る時、教授から何かほしいものはあるかときかれたので、えっちゃんは「塩がほしい」と言いました。料理をするのに、塩は必要です。


 教授はそんなのは簡単と言って、「スーパーにピックアップしよう」と言って、連れて行ってくれました。教授は店の前で車を止めて待っていて、えっちゃんがひとりで店にはいりました。

 

 はじめてのアメリカのスーパーです。

 あまりに広くて、品物もたくさんあって、何がどこにあるのかわかりません。


 それで、店員の女性に、「塩はどこですか」とききました。彼女は「アイル・スリー(3番目の通路)」と言ったのですが、えっちゃんの耳には「オール・フリー」、全部無料と聞こえました。


 この品物が全部ただなんて、アメリカはなんて豊かな国なんだと感動しました。


 塩をもって車に戻り、「アメリカはすごい。全部無料だなんて」と言うと、教授が驚いて、急いでお金を払いに行きました。


「全部がただだなんて、そんなことあるはずないですよね」とえっちゃんが言って、みんなで笑いました。

 そして、おじいちゃんもおばあちゃんも、えっちゃんが大好きになりました。


 おばあちゃんが部屋を覗くと、えっちゃんはスーツをかべにかけていました。しわを伸ばしている手つきが、なんだかとてもいじらししくて、どうすれば、こんなよい青年に育つのだろうと思いました。


 でも、おばあちゃんは長い間生きているので、完ぺきな人間はいないとを知っています。

 えっちゃんの本当の顔はどんなのだろうか、欠点は何なのだろうかと思いました。


 えっちゃんは寝る前にめぐみに電話をかけて、ふたりの日程をたしかめました。えっちゃんのほうは明日は半日休んで、夜はめぐみといっしょに食事。その翌日から29日までは京都大学に行き、30日に畑野家に戻る。31日に富士山に登り、元旦に初日の出を見る。

そして、1月4日にアメリカに帰る。えっちゃんのスケジュールはいつもこんな具合に忙しいのです。


 めぐみのほうは24日から 1月5日までが冬休みです。

 だから、年明けには生徒たちと会わせる時間がありそうですし、ふたりでどこかに出かけられそうです。ちょっとうきうきです。


「明日の夜、何が食べたい? お寿司?」と電話の向こうでめぐみがききました。

「お寿司は今夜、ごちそうになったよ。おいしかった」

「じゃ、ボルシチ?」

「そんなレストランが、あるの?」

「ウプス(しまった)、ないね」

「作れるの?」

「無理だね」

「じゃ、だめじゃないか。なら、きくなよ」とえっちゃんが笑いました。


「じゃ、何がいい?」

「お好み焼き」

「食べたことある?」

「ない。この間、メグが言っていたから」

「ああ。あれね」


 えっちゃんが食べたことがないと知って、「よし。じゃ、日本一おいしいのを作ってあげる」と言いました。

 お好み焼きなんて、粉をまぜて、具材をのせたりするだけですから、簡単です。それに、えっちゃんがお好みの味を知らないので、どんな味付けでも大丈夫だと思いました。ふふふ。


「Leave it to me(任せておきな)」とめぐみ。

「よろしくお願いします」とえっちゃんは言いながら、ニューヨークの頃とくらべると、めぐみがすごく元気になっていると思いました。


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