38 全部無料ですか
今夜は遅いので、れいかもめぐみ先生も来られず、おじいちゃん、おばあちゃんとえっちゃん、3人だけでの夕食です。
おじいちゃんが、「ビールがすきですか」と英語でききました。
「はい、好きです」とえっちゃんが日本語で答えました。
「孫と3人で英語を習っています」、とおじいちゃんが英語で言い、
「ワンダフル」とえっちゃんが英語で言いました。
「はじめてハーバード大学に来られた時、英語はどうでしたか。むずかしかったですか」とおばあちゃんがききました。
「読むのと書くのは少しできたけど、聞くのがだめでした」
ハーバードでは、大学はひとりの部屋を用意してくれました。
大学から帰る時、教授から何かほしいものはあるかときかれたので、えっちゃんは「塩がほしい」と言いました。料理をするのに、塩は必要です。
教授はそんなのは簡単と言って、「スーパーにピックアップしよう」と言って、連れて行ってくれました。教授は店の前で車を止めて待っていて、えっちゃんがひとりで店にはいりました。
はじめてのアメリカのスーパーです。
あまりに広くて、品物もたくさんあって、何がどこにあるのかわかりません。
それで、店員の女性に、「塩はどこですか」とききました。彼女は「アイル・スリー(3番目の通路)」と言ったのですが、えっちゃんの耳には「オール・フリー」、全部無料と聞こえました。
この品物が全部ただなんて、アメリカはなんて豊かな国なんだと感動しました。
塩をもって車に戻り、「アメリカはすごい。全部無料だなんて」と言うと、教授が驚いて、急いでお金を払いに行きました。
「全部がただだなんて、そんなことあるはずないですよね」とえっちゃんが言って、みんなで笑いました。
そして、おじいちゃんもおばあちゃんも、えっちゃんが大好きになりました。
おばあちゃんが部屋を覗くと、えっちゃんはスーツをかべにかけていました。しわを伸ばしている手つきが、なんだかとてもいじらししくて、どうすれば、こんなよい青年に育つのだろうと思いました。
でも、おばあちゃんは長い間生きているので、完ぺきな人間はいないとを知っています。
えっちゃんの本当の顔はどんなのだろうか、欠点は何なのだろうかと思いました。
えっちゃんは寝る前にめぐみに電話をかけて、ふたりの日程をたしかめました。えっちゃんのほうは明日は半日休んで、夜はめぐみといっしょに食事。その翌日から29日までは京都大学に行き、30日に畑野家に戻る。31日に富士山に登り、元旦に初日の出を見る。
そして、1月4日にアメリカに帰る。えっちゃんのスケジュールはいつもこんな具合に忙しいのです。
めぐみのほうは24日から 1月5日までが冬休みです。
だから、年明けには生徒たちと会わせる時間がありそうですし、ふたりでどこかに出かけられそうです。ちょっとうきうきです。
「明日の夜、何が食べたい? お寿司?」と電話の向こうでめぐみがききました。
「お寿司は今夜、ごちそうになったよ。おいしかった」
「じゃ、ボルシチ?」
「そんなレストランが、あるの?」
「ウプス(しまった)、ないね」
「作れるの?」
「無理だね」
「じゃ、だめじゃないか。なら、きくなよ」とえっちゃんが笑いました。
「じゃ、何がいい?」
「お好み焼き」
「食べたことある?」
「ない。この間、メグが言っていたから」
「ああ。あれね」
えっちゃんが食べたことがないと知って、「よし。じゃ、日本一おいしいのを作ってあげる」と言いました。
お好み焼きなんて、粉をまぜて、具材をのせたりするだけですから、簡単です。それに、えっちゃんがお好みの味を知らないので、どんな味付けでも大丈夫だと思いました。ふふふ。
「Leave it to me(任せておきな)」とめぐみ。
「よろしくお願いします」とえっちゃんは言いながら、ニューヨークの頃とくらべると、めぐみがすごく元気になっていると思いました。




