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35 兄とえっちゃん

 お兄ちゃんとエドウィンが知り合ったのは大学の「アニメクラブ」でした。エドウィンはアメリカに来るまで、日本のアニメというものを知りませんでした。アニメで見たことがあるのは、ディズニーの「トムとジェリー」くらいでした。


 エドウィンは国を出るのも、母と別れて住むのも、教壇に立って教えるのもはじめてでした。だから、さみしい時間が少なくなかったのですが、そんな時、偶然に見た日本のアニメになぐさめられたことがありました。その時には、彼の部屋にはまだテレビがなく、テレビのスケジュールも知りませんでした。


 エドウィンは、大学には「アニメクラブ」があり、そこには日本のアニメがたくさんあると聞いたので、出かけていきました。


 その時、部室にひとりいたのが兄の洋でした。洋は物理学会で見たエドウィンのことを覚えていました。

 学会の時には、この男とは住む世界が違うから、口をきくことはないだろうと思っていたのですが、その頭脳の男が目の前に現れたので、内心、びびりましたが、そんな彼がアニメに興味をもっているとはおもしろいと思いました。


 部室の棚には本やDVDがずらりと並んでいて、エドウィンはこの部屋で暮らしたいと思いました。

 壁に「全国大学対抗ワンピース大会」で優秀して、トロフィーを抱いている写真がはってありました。洋はその写真を指さし、次に自分を指さして、「おれ」と言いました。


「何のコンテストですか?」とエドウィンがききました。

「ワンピース」

「洋服?」

「まさか」

 洋はエドウィがアニメについて何も知らない、ということを知りました。


 海賊王になりたいルフィが手にいれたい宝、それが「ワンピース」なのだと教えました。

 エドウィンは言葉をスマホ翻訳にインプットすると「快速王かいそくおうと出たので、「おお、足のはやい人ね」と言いました。


「ちがうよ。パイレーツ」

  エドウィンはよくわかりませんでしたが、「とにかく、すごくおもしろいから、見れば」と洋が勧めました。

「オッケー」

「クラブに入会すれば、DVDも本も自由にみられる。無料で」

 と洋が言ったので、エドウインはその場で申込書に名前を書きました。


 以後、よくエドウィンは部室に来て、アニメを見るようになりました。エドウインはDVDプレイヤーをもっていなかったからです。


 ある日、洋が部屋に行くと、廊下でエドウィンがぽつんと立っていました。部室にかぎがかかっていたから、部屋があくのを待っていたのです。


「おれの部屋に来ないかい」と洋がさそいました。

「ヨウの部屋に?」

「余分のプレーヤーがあるんだけど、あげるよ、よかったら」


 おかげで、エドウィンはいつでもアニメが見られるようになり、すぐにサブタイトルがなくても、日本語がわかるようになりました。

「今度、アニメ大会に出てみないか」と洋がききました。

「だめです。名前が覚えられない」

「天才でも、名前が覚えられないのか」


「ぼく、天才じゃない。あたま、ぜんぜん、よくない。ワンピースのことをあんなに知っているなんて、そっちが天才だよ」

 なんて謙虚けんきょな男なのだと洋は感心しました。


「ヨウ、友達になってくれませんか。まだひとりも友達がいなくて」

 エドウィンには同じ国出身の友達はいたのですが、それ以外という意味でした。


「いいよ」と洋が答えました。おれが最初の友達か、悪くないとにやにやしてしまいました。実は、洋にとってはエドウィンが正真正銘、最初の友達なのでした。


 洋は大学を卒業した後、ウォールストリートに勤めました。でも、そこは1年半でやめて、自分で投資会社を設立しました。

 その頃は株が異常に値上がりしていて、洋はマンハッタンの高層マンションに住んでいました。

 エドウィンはニューヨークに移ってきた頃、部屋が見つかるまでの間、洋のところに泊まっていました。


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