29 感謝したい人
「みなさんは、今、だれにありがとうを伝えたいですか。人でも、動物でも、ものでも、何でもよいですから、考えてみてください」とめぐみ先生が言いました。
「わたしは今年、たくさん、感謝することがありますよ」と先生が言うと、「なにー」、「なんですか」と生徒たちが騒ぎました。
ひとつめは、この大つた村に来られて、6人の生徒たちと出会えたこと。
それから、れいかちゃんの大活躍で、探していたスマホが見つかったこと。
元気で、前よりも、ずっと歩けるようになったこと。自然が好きになったことです、と先生が言いました。
「みなさんの感謝したいことは何ですか」
みんなは口々にさまざまなことを言っていましたが、くるみが手を上げました。
「しょうぎがうまくなり、お正月の子供しょうぎ大会の選手にえらばれたことじゃ」
くるみはクラブにはいって間もないのに、そう太郎と明夫を追い抜いて、代表に選ばれたのです。
「すごいですね」
めぐみ先生がそう言ってそう太郎と明夫を見ると、下を向いています。
それをかばうように、「先生」とれいかが言いました。感謝したいのはめぐみ先生だというのです。みんなが「そうじゃ、先生じゃ」、「めぐみ先生じゃ」と言いました。
こんなわたしに出会えたことに感謝してくれるの?
めぐみ先生はよろめきそうになり、黒板に寄りかかりました。まいったね。
「どうして?」
「先生、おもしろいから」とそう太郎が言いました。
「そうじゃ、おもしろい」、「先生は、おもしろい」と生徒たちが言いました。
めぐみ先生は職員室に戻って、「教え方がよい」とか、「頼りになる」ではなくて、「おもしろい」とはどういう意味かしらと考えました。喜んでよいのかしら。
でも、とにかく、「感謝してもらえたことに、感謝しよう」と思いました。
めぐみ先生は帰りに、平家山の派出所に寄りました。佐々木ルツ子巡査に、お礼を言いに行ったのです。
「あなたがめぐみさんですか」
ルツ子巡査はとても喜んでくれました。
「メグさんという方には、ずうっとお会いしたいと思っていました」
めぐみは3年間もスマホを保管してくれたことを感謝し、愛子ちゃんの店で買ったコーヒーセットをわたそうとしましたが、ルツ子巡査は規則上、お礼は受け取れませんと言いました。冷たい感じではありません。それとはまるで反対で、もっと話がしたい、聞いてみたいという気持ちがひしひしと感じとれました。
「時間がおありの時に、どこかで会ってくださいますか。町でお茶でもいかがですか。町に行くのが大変でしたら、大つた村の我家でも、よいのですが」とめぐみ先生が言いました。
「勤務交代したら、今夜うかがえるのですが、よろしいですか」
「は、はい」
めぐみ先生は急いで帰って、お好み焼きを用意しました。感謝祭の日に、またお好み焼きね、とめぐみ先生はお好み焼きを食べたあの感謝祭の日のことを、また思い出しました。




