28 感謝祭の七面鳥
「今日はアメリカでは感謝祭、サンクスギビングです」
その朝の教室で、めぐみ先生が言いました。
「サンクスはありがとう、ギビングは与えるという意味です。11月の第4週の木曜日で、その日は休日で、学校もお店もお休みです。スーパーも半日くらいで閉めて、みんなうちに帰り、家族でお祝いします。遠いところから家に帰ってくる人も多いから、いつも空港やフリーウェイは混みます。その日のあいさつはハーワーユーではなくて、ハッピー・サンクスギビング。その日には七面鳥を食べるのが習慣で、何に感謝をするのか考えてから、食べるのよ」
生徒の関心は七面鳥です。
「七面鳥、食べたことない」、
「写真でしか見たことない」
「食べたい」と生徒たちが口々に言いました。
「先生は、七面鳥を食べたことありますか」と愛子がききました。
「ありますよ」
「おいしいんか」とそう太郎です。
うーん、とめぐみ先生は頭をかしげました。
「アメリカの人は子供の時から食べているから、なつかしい味でおいしいのかもしれないけれど、わたしはちょっと」と言ったかと思うと、急に笑い出しました。
「先生、どうしたのー」と生徒たちが不思議に思いました。
でも、めぐみ先生の笑いが止まりません。
「先生、こわれた」と明夫が言ったので、くるみがにらみました。
「あのね」と先生が涙をふきました。
「みなさんは納豆をみたら、食べる前にかきまぜるってこと、知っているわよね。子供の時から食べているから、そんなの常識。でも、納豆をはじめて食べるガイジンを想像してみて。その人は、食べる前に、かきまぜるって知らないわよね」
みんながうなずきました。
さて、先生は何の話をするのでしょうか。
「アメリカでの最初のサンクスギビングでは、うちの母は七面鳥を料理するのは初めてでした。でも、チキンは焼いたことがあるので、そんなふうに焼けばいいと思っていたのよ」
七面鳥は生でも買えますが、たいていのひとはスーパーで冷凍ものを買います。めぐみのお母さんも冷凍のターキーを買いました。
感謝祭の朝は少し早く起きて、冷凍庫がターキーを取り出しておきました。
他のおかずやデザートを作って、いよいよ焼く時刻になりました。
ところが、冷凍のターキーはまだ凍ったままで、全然溶けていません。
その時、わかったのですが、ターキーは解凍するのに時間がかかるので、前の晩から外に出しておかなければならないのです。
「だから、その年の感謝祭には、うちではお好み焼きを食べたのよ」
そのターキーは冷凍庫に戻して、クリスマスに食べることにしました。
感謝祭とクリスマスは近いので、問題はありません。
クリスマスには、お母さんはちゃんと前の晩から、ターキーを外に出しておいたので、うまく解凍できました。
お母さんはアメリカ人の友達から、ターキーをこんがりとうまく焼く方法を教えてもらっていました。何分おきにオーブンをあけて、注射器のおばけみたいなので、ターキーから落ちてきた油をかけるのがコツです。
お母さんは顔を赤くしてがんばりました。油をかけるたびにオーブンを開けるのですが、オーブンの中は熱いのです。おかげで、雑誌にのっている写真のように、きれいに仕上がりました。
いよいよディナーの時間です。テーブルの上で切り分けるのは、お父さんの役目です。
ところが、ターキーのお尻の部分からなにか変なものが出てきたので、引っぱってみました。それはターキーの首や内臓で、それらは別に袋にいれて、ターキーの中にいれてあるのです。それは取り出して、スープを作ったりします。首には脂が多いので、好きな人も多く、焼いて食べたりもします。
その空洞になった部分にはスタッフィングといって、パンとかお米、野菜などの詰め物をします。それは家庭によって違うのですが、油を吸って、とてもおいしいのです。そこに その家の味がでるようです。
でも、めぐみのお母さんはそのことを知りませんでした。アメリカ人の友達はそんなことは当然知っていると思っていたので、説明をしなかったのです。
「ママは中のものを取り出して、洗わなかったのかい。汚ねー」
とお兄ちゃんが言ったので、お母さんは恥ずかしくて、泣きそうになりました。
「ちゃんと焼いてあるから、大丈夫だよ」とお父さんが言いました。
そのターキーは甘いクランベリーのソースをつけて食べました。
お兄ちゃんも食べました、少しですが。
それは、お父さんに、「態度が悪いと、サンタクロースがやってこないと」とおどされたからです。
お兄ちゃんの洋は小さな時から口の立つ、生意気系の子供でしたが、あの年で、あの頃はもう10歳にもなっていたと思いますが、なぜかサンタクロースの存在を信じていたのです。
「おもしろい話ではないけれど、今になってみると、おもしろいわ」とめぐみ先生が言いました。




