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25 「逃げちゃ、だめなんだ。わかったか」

 めぐみ先生はころんで、足に怪我してしまいました。

 たいした怪我ではないと思っていたのに、座る時も、ベッドに乗る時も、痛いのにはびっくり。ぜんぜん関係がないと思っていた部分なのに、こんなに左ひざが活躍していたとは、知りませんでした。


 火曜日の夜に、とつぜん、畑野与太郎本部長から「スマホのありかがわかりました」という知らせがありました。


 遺失物いしつぶつ)はふつう、警察に届けられてから2週間か1ヶ月、特別な場合でも、1年らいしか保管しません。いつき先生のスマホがなくなったのは3年前の話ですし、第一、だれかが発見して届けてくれていたかどうか、それもわかりません。


 だから、見つかるはずはほぼないとは思っていましたが、これが最後のたのみと思って届け出を出して、奇跡が起きてほしいと願っていました。

 そしたら、本当に奇跡が起きました。


 めぐみ先生はその瞬間がきたら、天井まで飛び上がって喜ぶだろうと思っていたのですが、実際のその時には、なんか、ぼやっとしてしまいました。でも、足の痛みのほうは、忘れました。


「それについて説明したいので、自宅に来てくださいますか。夕食でも、いかがでしょう。報告したいこともありますし」と本部長が言いました。

「はい、よろしくお願いします」と先生は遠慮をしないで、すぐに答えました。


 ぼんやりしている頭の中を、「キセキはあきらめないやつのところにしか、おりてこないんだ。なめんなよ」という言葉が頭を走りました。

 

これはえっちゃんが言っていた言葉です。でも、彼が考えたわけではなくて、アニメの中の言葉です。

 えっちゃんはアメリカに来て、日本のアニメを見て、日本語を覚えたのです。


 えっちゃんが好きなアニメは「ワンピース」とか「エヴァンゲリオン」で、その中の言葉を時々使います。でも、それほど日本語ができるわけではないので、自分流に言いかえています。

 彼がそのセリフを使う時には、声優みたいないい方になるので、パクっているなとめぐみにはわかります。


 えっちゃんが言っていたパクリには、こういうのがありました。

「逃げちゃ、だめなんだ。逃げちゃ、だめなんだ。わかったか」

「時計の針はもとにはもどらないだろ。だけど、先にすすめることはできるんだ」


 めぐみ先生が本部長から招待されたのは土曜日なので、その日が待ち遠しくてなりません。すぐにスマホを返してくれないで、説明したいこととは何かしら。報告とは何かしら。

 あれこれと考えていると、木曜日の夜、中川樹の母親から電話がありました。本当に久しぶりです。


 いつきさんの母親は、警察からいつきさんのスマホが見つかったというので、取りに行ってきました、と言いました。

 めぐみ先生はいつきさんと結婚をしていたわけではないので、こういう遺失物は親族にわたされるのだとわかりました。


 スマホはどこかに強くぶつかったらしく、画面が割れ、液晶がもれていて、フレームも歪んでいる状態。すぐに修理にもって行ったけれど、直せるかどうかわからないと言われたそうです。


「スマホが戻ってきたら、めぐみさんにお届けします。長い間、探し続けてくださったんですってね。ありがとう」


 めぐみはこれで本部長がスマホをすぐに返してくれないで、「説明する」と言った意味がわかりました。



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