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24 和歌のおばあちゃん

 その時、保健室に、和歌がやって来ました。

「先生、だいじょうぶ?」

「だいじょうぶよ。和歌ちゃんは?」

「わたしもだいじょうぶじゃ」

「和歌ちゃんがこんなに早く会えるとは思わなかった。うれしいわ」

 とめぐみ先生は毛布で足の部分をかくしました。今、中田先生がズボンの穴をつくろってくれているのです。


「みんなは?」

「ちゃんとドリルをやっているじゃ。心配ないじゃ。これ、お母さんが」

 和歌はビニールにはいった袋をわたしました。中にはおにぎりがふたつはいっていました。

「シャケと昆布じゃ」と和歌が言いました。


「わたし、おばあちゃに会いにいったんじゃ」と和歌が言いました。

 センターに行くと、かいごスタッフのみゆきさんが、「今日はおばあちゃんの調子が悪くて」と言ったので心配になりました、

 お母さんと和歌が面会室で待っていると、スリッパをはいたおばあちゃんが廊下をすたすた歩いてきて、みゆきさんが追いかけてきました。

「おばあちゃん、元気じゃ」と和歌は喜びました。


 おばあちゃんがお母さんのところを通りすぎようとしたので、「おばあちゃん」とお母さんが言いました。するとおばあちゃんが止まって振り向きました。

「あなたは、どなたさまですか」


「私、よしこですよ」とお母さんが驚きました。

「よしこなんて、知らん」とおばあちゃんが言いました。


「おばあちゃん」と和歌が呼びかけました。

 お母さんのことを忘れても、自分のことは忘れてはいないと和歌は信じていました。

 でも、おばあちゃんはじろりと見て、「あんた、だれじゃ」と言いました。


「わたし、和歌じゃ。和歌を忘れてしまったんか」

 と涙を浮かべると、おばあちゃんは少し考えました。


 すると、目にスイッチがはいったように見えました。ほら覚えていた、と和歌がその言葉を待ちました。


「あんた、どうして結婚せんのじゃ」

 えっ。

 おばあちゃんは和歌もわからないのです。


「おばあちゃん、この人は島崎和歌子さんではないですよ。こちらの和歌ちゃんはずっとお若いでしょう。お孫さんですよ」

 とみゆきさんが言いました。

「早く結婚しなさい。そんなにきれいなんじゃから」


「おばあちゃん、女性は早く結婚したほうがいいの?」とみゆきさん。

「そうじゃ」

「どうして」

「そういうもんなんじゃ」


「おばあちゃん、私は40歳だけど、まだ独身ですよ。きれいでないから、だめかしら」

 みゆきさんがけっこう難しいことを言いました。

 おばあちゃんにはわかるのでしょうか。


 おばあちゃんはみゆきさんの顔をじろじろと見つめました。

「だめじゃない」

「よかった」とみゆきさん。


「みゆきさんは親切で、よい人じゃ。だめじゃないからな」

 おばあちゃんはみゆきさんをはげますように、何人かの独身のタレントの名前をあげました。

「すごい。おばあちゃん、よく覚えているのねぇ」とみゆきさんが喜びました。

「さんまさんもそうじゃ」とおばあちゃんが得意そうです。

「でも、さんまさんはバツイチですよね」

「そうじゃな」


 みゆきさんは、おばあちゃんは家族のことをすっかり忘れてしまったわけではないこと。調子がよい日には、しっかりと思い出して、和歌ちゃんの話はよくしていることを教えてくれました。

 次の面会の時には、おはなしができるかもしれませんよと言ってくれました。


 和歌はそれを聞いて、やっぱり自分が世話をするのは無理。おばあちゃんには、専門の介護スタッフの助けが必要だとわかったのです。

「すごい理解力ねぇ」とめぐみ先生が感心しました。


 教室に戻ると、くるみが黒板の前に立って、ドリルの計算問題を説明していました。

 シャープなれいか、いろんなことを知っている愛子 理解力の和歌、クラスの女子の中で、くるみが一番おとなしい存在でしたが、最近、めきめきと積極的になってきている気がします。


 今朝は生徒がとても大きく見えます。

 わたしはこれでよいのかしら、とめぐみ先生は思いました。


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