23 めぐみ先生、寝坊しちゃいました
めぐみはエドウィンに、「山に行っている」とメールを書いたことがありましたが、登山していたわけではなく、冨士山とは比べものにならないほどの低い山で、スマホをさがしていただけです。
それがコーリーが死んだと知って大ショックだった直後、「富士山で朝日を見て、命を祝おう」というところを読んで、 衝動的に「イエス」とメールをしてしまいました。元旦に、富士山で、命を祝いたいと思ったからです。
でも、考えてみると、富士山登山というのは大きなプレッシャーです。
めぐみ先生はもともと運動は得意なほうではなくて、走りも遅いし、脚力にも自信がありません。
昔よりは、ずいぶんと歩けるようになったのはたしかですが。
だから、それ以来、めぐみ先生は富士登山をめざして、時間があると登山靴をはいて、トレーニングしているのです。
青ヶ岳でも大変なのですから、富士山は大丈夫かなぁという不安はあります。でも、サイトを調べると、年寄りでも、子供でも登れると書いてあったで、力づよいです。
日曜日には重い荷物を背負って山に登る訓練をしているので、月曜日の朝は起きるのが大変です。いつも起きるのは苦手なのですが、月曜日の朝は特にしんどいです。
今朝も目覚ましの音で一度は起きたのですが、あと5分だけと思ったのが大間違い。はっと目をさましたら、もう学校が始まっている時刻でした。
あー、やってしまいました。まいったね。
歯だけはみがいて、髪の毛は手でなでつけて、めぐみ先生は走りました。どっかの犬が飛ぶようにして追いかけてきました。犬は大好きですが、かまっているひまはありません。
でも、あわてると悪いことは起こるもので、道の途中でころんで、身体が宙を飛びました。
まずい、いたい、と思ったら、ズボンの左ひざに穴があいていました。怪我をしたかもしれないけど、たしかめる時間がありません。
めぐみ先生が足を引きずりながら、それでも学校をめざして全速力で走っていくと、校門のところで、子供たちが手を振ってかん声をあげていました。マラソン大会の応援みたいです。
ゴールにいるのは、クラスの子供たちです。
ひとり、ふたり、3、4、5、6人、
あらっ、和歌ちゃんまでいます。
れいかがにこにこしています。
めぐみ先生は息が上がって、言葉が出てきません。
「先生、きたじゃ。3年も待てんけん」と和歌が言いました。
「先生、顔がよごれています」と愛子が言いました。
どうもころんだときに、顔に、泥がついたみたいです。
「そんな顔じゃ、よめにいけねー」と明夫が言いました。
「どして、余計なことばかり言うんじゃ」とくるみが明夫を叱りました。
「先生、わたし達はちゃんと自習しているから、顔を洗ってきたらいいじゃ」
とれいかが言いました。
ほんと、どちらが先生なのか、わかりません。
「これは、まいったね」とめぐみ先がつぶやきました。
れいかには何かよいことがあったらしく、にこにこが止まりません。
めぐみ先生は職員室に行き、顔を洗いました。そして、足にけがをして血が流れていたので、保健室に行きました。
中田道子が消毒をして、ばんそうこうを貼ってくれました。そして、ズボンのほころびを直してくれると言いました。
「本当に、ポンコツですみません」とめぐみ先生が言いました。
「そんなとこないわよ。そのくらいでちょうどいいのよ。あまり先生が引っぱりすぎると、外からはよいクラスに見えるけど、生徒に自主性がなくなるもの」
「そうでしょうか」
中田先生が中学生だった時の話をしました。
先生の学校は大きくて、1学年が、3クラスありました。
ある時、担任が引率して登山に行くことになりましたが、クラス全員が登ったのは中田先生のクラスだけ。でも、担任は途中で、棄権ギブアップしたのです。それを見た生徒が、担任のためにもとがんばったのでした。他のクラスは担任は上まで行きましたが、登れた生徒は半分くらいでした。
「はぁ。そうですか」
中田先生が励ましてくれているのはわかりますが、めぐみ先生は喜んでいいのかどうか、わかりません。




