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14 いつきさんがハルジオンだったわけ

 その日、めぐみ先生は教室をもっと楽しいものにしようと、壁に生徒の作品を貼ったりしていたので、帰りが遅くなりました。


 学校の途中で店により、インスタントのプルタックポックンミョンを買いました。家で作って食べてみると、一番からくないのを買ったはずなのに、それでもからくてびっくりです。「からい」、「でも、おいしい」とくちびるをひりひりさせて、ミルクを飲みながら食べました。それでもからいので、ヨーグルトをたべながら、リバー生先の「昆虫、たのしい」シリーズを見ました。


 その回は「虫たちのダンス」というタイトルで、リバー先生が卵や毛虫に糸くずをのせるのです。すると、卵がふ化した時や、虫が脱皮した時に、糸くずが頭について、虫たちはその帽子をかぶったまま動くのです。

「青虫のダンスだよ、おもしろいだろ」とリバー先生が言いました。


 そっくり同じことをいつきさんが言っていたのを思い出しました。

 リバー先生の動画を見ていると、とても不思議な、懐かしい思いがする時があります。

 もしかして、これ、いつきさんが作ったのかしら。

 

 でも、リバー先生の声はいつきさんのものではありません。

 いつきさんはぼそぼそと話すのに、リバー先生は声優のように、とてもよい声をしていて、はっきりと話します。

 

 それに、この動画は古いですが、最近、アップしたものもあります。

 ですから、いつきさんが作ったのではありません。 


 ユーチューブの登録者を見ると、「Double Riverダブルリバー)」です。

 ふたつのリバー?

 ふたつの川?


 そう言えば、いつきさんには、「川口健司けんじ」という年下の同僚がいました。

3人で焼き肉を食べに行ったことがありました。


 その川口さんとはお葬式の日以来、会ったことはないのですが、電話番号はもっています。

 時間的にはおそいかしらと思ったのですが、明日を待てない気持ちなので、思いきって電話をかけてみました。


 川口先生はちょうど研究室から帰ったところでした。

 突然のめぐみからの電話に驚いていましたが、とても喜んでいました。

「アメリカに行かれたものだとばかり思っていました。お元気ですか」


 めぐみは大つた村で小学校の教師をしている話をした後で、「リバー先生の昆虫、たのしい」というユーチューブを生徒たちと見たことを話しました。

「うれしいなぁ」と彼が言いました。


「やっぱり、リバー先生のユーチューブは川口さんが作ったものなのですね」

「あのユーチューブは中川先生が始めたのですよ。今まで知らなかったのですか」と川口先生が驚きました。

「彼はシャイだから、めぐみさんには秘密にしておいたのかな。そのうちに、伝えるつもりだったと思います」


 子供たちちに昆虫のことを伝えたいといういつき先生の発案でした。彼はほとんどの写真撮影や編集をしていただけではなく、資金も彼が全部提供していました。少しでもよいものを作ろうと、いろんな所へ足を延ばしました。

 いつき先生はしゃべりが苦手なので、そちらは川口先生の担当になりました。

 その時、めぐみは、いつきさんが自分は貧乏草だと言った意味がわかりました。


「だから、中川と川口で、登録者の名前がダブルリバーだったのですね」

「はい。先生が亡くなって川はひとつになってしまいましたが、小規模ながら、続けています。先生が喜んでくれるのではないかと思って」


 川口先生はため息をつきました。

「昆虫の生命は続いていくのに、同じ地球上に中川先生がいないと思うと、さみしくてならないです」


 わたしもそうです、とてもさみしいとめぐみ先生は思いました。

 でも、この世には、こんな形で、いつきさんのことを残そうとしている人がいるのだと思うと、めぐみ先生は鼻がツーンといたくなりました。

 泣くのはがまんしていたのですが、電話を切ったとたん、涙があふれて、止まらなくなりました。


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